1970年代半ば、「潮吹き女優」として一世を風靡した女性がいた。窪園千枝子さん。「1斗(約18リットル)も出るわ~」と世間を驚かせ、「♪しおふき小唄」を歌って流行らせた。折しも女性の地位向上を目指す第1回国際婦人年世界会議が開かれたばかりだったが、マスコミの話題は彼女一色に。「潮吹き一発! 国際婦人年の火を消した」と、世の女性たちを嘆かせたものだ。
千枝子さんのように大らかに「潮吹き」をウリにする女性は稀である。セックス時に液体を放出して「病気ではないか」と、人知れず悩む女性は多い。大丈夫、少しも心配ありません。「潮吹き」現象の謎がわかってきたのだ。
尿とは明らかに違う液体だった
泌尿器科医の小堀善友氏は、著書の『泌尿器科医が教える オトコの「性」活習慣病』の中で、「潮吹き」を「女性の射精」(female ejaculation)と呼び、こう書いている。「射精は男性特有と考えられているが、女性の射精の医学的な研究もある。2010年の論文によると、4世紀に中国で書かれた道教の古典や同時期のインドのカーマ・スートラの中にも詳細な記載があるそうだ。西洋ではもっと早く紀元前3世紀にアリストテレスが報告。16世紀には初の科学的な解析がされて、尿道のそばの女性の前立腺から射出された液体であると報告されている」。
そして、こう続ける。「日本でも5年ほど前、日本性科学会で九州の法医学の先生が女性の射精液を調べた研究を発表した。3人から採取したが、尿とは明らかに違う液体だったという。『どうやって採ったのか?』と質問したが、教えてもらえなかった......」。
小堀医師のコラムのレビューには、女性がこんな投稿をしている。「2年前にお付き合いした男性と性交中、初めて潮吹きしました。恥ずかしさと何がなんだかわからなくて混乱しました。それ以降いつも潮吹きします。かなり勢いよく遠くまでジャーッと飛ぶこともあれば、ジュワーっとにじむように出る時も。液体そのものは無色透明無臭ですが、同じタイミングでおしっこが出ちゃうこともあります。おしっこの場合は色や臭いで潮と違うことがわかります。潮が一体何なのか、よくわかりません」
「イク時にピュ~と出る」のは男の勝手な思い込みだった
液体の正体については、後述するとして、「潮吹き」について日本でも大々的に調査した報告がある。2012年12月、社団法人・日本家族計画協会がコンドームメーカーのジェクスと共同でネットを通じて行った性行動の実態調査だ。ネット調査の限界はあるものの、初めて「潮吹き」の実態の一端が明らかになった。20歳から69歳までの男女計6961人(有効回答=男4254人・女2707人)が対象だ。
「潮吹き」現象について、「何度もある」が8.3%、「たまにある」が26.1%で、34.4%が「ある」と答えている。潮を吹く経験が一番多いのは40代だが(37.7%)、60代でも35.1%おり、世代間に大きな違いはみられなかった。また、一般的には「オルガズムに達した時に吹き出る」と思われているが、オルガズムの頻度と潮吹き現象とでは統計上の相関はなかった。オルガズムがなくても潮を吹く場合もあるし、あっても吹かない場合もあり、バラバラなのだ。
つまり、「イク時にピュ~ッと出る」というのは男性側の勝手な思い込みだという。調査を行った日本家族計画協会理事長の北村邦夫医師は「『潮吹き=オルガズム』という誤った知識を鵜呑みにして、男性が何とか潮を吹かせようと努力する結果、いわゆる〝Gスポット〟がある膣前壁周辺組織を著しく損傷して婦人科を訪れる女性が後を絶たない」と警告する。
より良いオルガズムに達するため、「正しい潮吹き」の講習会も。
「Gスポット」の話が出たので、ここで「潮吹きのメカニズム」として広まっている説を紹介しよう。1944年、ドイツ人医師のエルンスト・グレーフェンベルグが、クリトリスと同様に女性の性欲を喚起する場所を膣内の前壁に発見、そこを刺激すると「ある液体」が膣口から飛び散ったと発表した。その部位は彼の名前から「Gスポット」と名付けられた。以来、多くの性科学者がこの現象と液体の正体について研究したが、謎は解けなかった。膣壁からにじみ出る「愛液説」、尿道から飛び出る「尿失禁説」......。諸説入り乱れたが、2000年代後半に入って有力な説が出てきた。「女性の射精」だというのだ。
もちろん男性と違って女性には精子はない。男性の精液は、精子が前立腺の液に混じったもので、ペニスの尿道から放出される。女性にも男性の前立腺にあたるスキーン腺という器官がある。スキーン腺は尿道と直結しており、スキーン腺にたまった潮が尿道から放出されることがわかったのだ。
潮の成分を分析すると、尿の成分が多少交じっているももの、むしろ汗に近いという。潮から男性の前立腺液にあるものと同じ酵素も発見された。液体が尿道から放出される仕組みといい、液体の成分の相似といい、男性の射精に近い形である。スキーン腺の容量は約5ミリリットルで、性的刺激を受けると、たまった潮を含んで膨張する。その量は多いとカップ2杯分にまで達する。
「女性には男性の精嚢(のう)のように液体をためる器官がありません。多量にたまると刺激を受けてそのまま放出されてしまいます」と女性専門医はサイトで説明する。だから、「潮吹き」は必ずしもオルガズムと一致するわけではなく、不安定なのかもしれない。
米国では、女性が「正しい潮吹き」の仕方を学ぶ講習会があるそうだ。心身ともにリラックスした状態になり、自分の指でクリトリストと乳首を十分に刺激して快感を高める。そして、Gスポットを2本の指でリズムカルに圧迫して、潮の放出を促す。うまく射精するようになれば、Gスポットを圧迫するタイミングをずらして、射精とオルガズムを同時に得ることができる。なぜ、こんな練習をするのかというと、オルガズムが近づくと尿意が高まり、心理的な抵抗となって絶頂に至らない女性が多いからだ。
オルガズムは女性の喜び。「潮吹き」はちっとも恥ずかしいことではないのだ。
もっとよく知りたい人は、社団法人・日本家族計画協会、 米国の女性器研究サイト「クリトリス・コム」の「女性の射精」。