携帯電話で健康に関する励ましのメールを受けるだけで、心血管症の人の健康状態が大きく改善する。こんなびっくりするような研究成果を豪シドニー大学のチームが2015年9月22日号の米国医師会雑誌「JAMA」に発表した。
研究チームが対象にしたのは、心筋梗塞などの心血管症でシドニーの病院を受診している18歳以上の患者710人。平均年齢は58歳で8割は男性だ。この人々を、(1)携帯電話のメールで定期的に健康に関するメッセージを受け取るグループ、(2)何も受け取らないグループ、の2つに分け、6か月後に健康診断と生活状況の聞き取り調査を行って比較した。
心疾患の患者に週4回、一方的にメール
メールは、メルマガのように患者が週に4回、計100回ほど一方的に受け取るだけ。例えば次のように4つのジャンルで具体的にアドバイスするものだが、個々の患者に合わせて考えられた内容ではなく、137個のメッセージ集の中からランダムに選択したものだ。
(1)タバコの弊害:「こんにちは○○さん(患者の名前)、あなたがタバコを吸い始めた理由を考えてみてください。それがわかったら、それを回避するために何をするべきか、計画をたててみましょう」
「○○さん、禁煙するにはいくつか方法があります。さあ、挑戦し続けましましょう」
(2)食事とダイエット:「○○さん、あなたは人々の90%が取るべき量の野菜を食べていないことを知っていましたか?」
「○○さん、食べ物の塩分を減らしましょう。それには他のスパイスやハーブを使うことです」
(3)身体活動:「○○さん、体を動かすことはあなたの健康にいい効果をもたらします。糖尿病、心臓発作、脳卒中、そしてそれらの合併症のリスクを減らしてくれます」
「特にウォーキングはおカネがかかりません。どこでもできるし、必要なのは快適な靴とウエアだけですよ」
(4)心臓病情報:「○○さん、胸の痛みを持っていますか? 最近の研究では、ストレスや不安、孤独が心臓病の危険を高めることがわかっています。ぜひ、医療の専門家に相談してください」
半年間で中性脂肪の数値が大幅改善、喫煙者は26%減に
6か月後の健康診断の結果、メッセージを受け取ったグループは、受け取らなかったグループに比べて、特に以下の分野で大幅に健康状態が改善していた。
(1)善玉コレステロール(HDL)の数値が39→43に上昇(受け取らないグループは43→44とほぼ変わらず)
(2)中性脂肪(TG)の数値が177→140に激減(同168→160に微減)
(3)肥満指数(BMI)の数値が29.8→29.0に微減(同29.6→30.3に微増)
(4)身体活動量(Mets)の数値が4.7→15.6にと、なんと3倍増(同7.9→10.7に20%増)
(5)喫煙者数が184人→88人にと、なんと26%減(同193人→152人に12%減)
専門家の間では、もともと心血管症を患い、普通の人より生活改善の意識が高い人々だから、携帯のメルマガのような一方的なコミュニケーションでもこれほど劇的に改善できたのだという指摘がある。
この論文について、北里研究所病院糖尿病センターの山田悟センター長は医療専門紙「メディカルトリビューン」のウェブサイトでこうコメントしている(要約)。
「これほど良い結果が一般社会でも得られるという過剰な期待はできないが、少なくても健康改善の動機づけができた人々には、一方向のコミュニケーションでも有効であることを示した論文である。多忙すぎて医療機関を受診すらできない日本人中高年者を救うには、こうした健康アプリや健康メルマガが有効かもしれない。その有効性を検証する臨床試験を実施するべきだと思う」