第3次安倍改造内閣が掲げる「1億総活躍社会」が実現に向けて動き出した。安保法制強行で低下した内閣支持率を、「経済優先」で回復させようという戦略の看板政策だが、構想表明当初は、イメージがわかない上に、戦前の「一億火の玉」「一億一心」などが戦前の全体主義を連想させることもあって、冷ややかな声も目立った。
政権が命運をかけて打ち出した以上、霞が関の組織は動き始めた。とはいえ、目新しい政策がそうあるはずもいなく、一部の役所がこれを名目にした予算分捕りに血眼になっている。結局は予算配分でメリハリをつけ、それを「1億総活躍」の姿にしつらえて上手に見せるかがポイントになりそうだ。
厚労省も文科省も内部に「1億本部」設置
安倍首相は2015年10月14日、首相官邸の執務室に1億総活躍相や新たに設けた「1億総活躍推進室」の幹部を呼び、「自分たちで未来をつくるんだとの自覚をもって取り組んでほしい」と指示し、11月末までに緊急対策、2016年5月末までに2020年を見据えた「日本1億総活躍プラン」を作成する考えを示した。
これを受けて19日に10府省庁の局長級幹部職員を集めた連絡会議を開催。加藤勝信担当相は「1億総活躍社会の実現に向け、全ての政策を総動員させていく。縦割りを排除し、政府の持てる力をしっかり発揮していきたい」と呼びかけた。23日には15人の国民会議メンバーを発表し、タレントの菊池桃子氏らが話題になった。
すでに霞が関の各省の間では、内閣の看板政策にからめて政策を打ち出せば新たな財源を確保でき、省益拡大につながるのではないかとの思惑が渦巻く。中でも、関連施策を多く抱える厚生労働、文部科学両省の動きが目立つ。
厚労省は、首相が1億総活躍に向けて掲げた「新3本の矢」(GDP=国内総生産600兆円、希望出生率1.8、介護離職ゼロ)のうち、少子化対策と介護問題を担う。早速、16日、省内に「1億総活躍社会実現本部」を設置し、保育所の整備や保育士の増員といった待機児童対策の拡充などへの取り組みを強める。塩崎恭久厚労相は本部立ち上げに際し、「わが省が先頭に立って取り組まなければいけない課題だ」と檄を飛ばした。
同じく省内に推進本部を立ち上げたのが文科省。馳浩文科相が16日の経済財政諮問会議で「1億総活躍社会の実現に向けて」と題する資料を提示。出生率の向上▽貧困の連鎖を断つ▽特別な支援の充実の三つの目標を掲げ、「教育投資の効果」を強調した。厚労省が所管する保育を中心にした未就学児中心の議論が多かった「子育て支援」の幅を広げ、「教育費負担が少子化の最大の要因」(馳文科相)としている。馳文科相は17日の講演で、フリースクール義務教育化や夜間中学校の増設など具体的な政策に言及した。
厚労省と並んで「推進室にエース級職員を5人送り込んだ」という経済産業省は全体の施策をにらんだ主導権獲得を目指しながら、「企業に対する働き方改革」などで具体策を詰める見込み。他にも、国交省は国土強靱(きょうじん)化のほか、「3世代の近居・同居」などが施策候補になりそうだ。