ハロウィン本番を翌日に控えた2015年10月30日夜、渋谷には早くも仮装姿の若者たちが大量に集まり、駅前一帯はまさにお祭り騒ぎとなった。
ハロウィン前夜、渋谷では何が起こっていたのか。
セクシーな女性には撮影のお誘い続々
「なんか、こんな普通の格好でいるのが恥ずかしくなってきたね」「コスプレしてないと、なんか悪いみたいな気がしてきたわ」
通行人からそんな声が聞かれたほど、ハチ公前からセンター街にかけての一帯は、仮装で満ち満ちていた。
ゾンビや小悪魔、キョンシーなどホラー系の仮装がやはり多いが、アニメや漫画のコスプレに身を包んだ人も目立つ。と思えば、牛乳の紙パックや缶ビール、Tカード、はたまたアンディ・ウォーホルとマリリン・モンローに扮した人など、アイデア勝負組も少なくない。
「やばーい、超たのしーい!」 2人連れのゾンビ風ナースが、テンションアゲアゲで記者の横をすり抜けていく。ともに、片手に持ったお酒でほろ酔い加減だ。中にはメイクが崩れるのを防ぐためか、ストローを突っ込んで飲んでいる人もいる。
「写真送るから、LINE教えてよ......」
センター街の交差点。そんなご機嫌な女性たちを捕まえて、一緒に記念撮影したお化け姿の男性が、さっさと先に行こうとする彼女らになんとか食い下がる光景を見かけた。断られるや、今度は別の女性にロックオン、自撮り棒を伸ばしながら、「すみませーん、一緒に写真撮りませんかー?」――わかりやすいナンパだ。
彼らに限らず、特にバニーガールや、ヒョウ柄の全身タイツといった、セクシー系の仮装をした女性たちには、次から次へと撮影のお誘いが来る。「今日は君みたいなかわいい子、撮りに来たんすよー」といきなり腰を抱くような連中もいるが、彼女たちは愛想笑いであしらいつつ、くいっと衣装を整える。
DJポリスにカメラ殺到するも「写真撮影はやめて」
そんな騒ぎを虎視眈々と狙っているのは、(記者もそうだが)メディアのレンズだ。特にテレビのクルーはハチ公前広場に陣取り、仮装者の品定めをしている。
「面白いのいないっすね......」 某社のカメラマンがぼやく。定番のミニスカポリスなどの撮影を一通り終えてしまい、お眼鏡にかなう仮装がなかなかいないらしい。一方、別の社では、若い男性レポーターが群衆を背に、「渋谷駅は今、まさに仮装パーティー状態です!」とあおるように叫んでいる。実際、ハチ公前~センター街の人出は、時間を追うごとに増えていく。
23時過ぎ、ついに待機していた機動隊の「DJポリス」が車上に立ち、スクランブル交差点の誘導を開始した。すると、「本物のDJポリスだ!」と喜んだ通行人がその周りに集まり、一時かえって横断歩道周辺が混雑状態に。さすがのDJポリスも、話題となったユーモアを交える暇もなく、「付近のドライバーの方が迷惑されています! 写真撮影の方は早く歩道にお上がりください......」と連呼するほかなかった。
0時。電車もそろそろなくなり始め、センター街はともかく、ハチ公前広場は急にさびしくなる。お役目を終えてDJポリスも姿を消すが、それと入れ替わるように、「ああ~あああああ~あ」と、広場には「北の国から」のメインテーマが流れ始めた。
そして朝、まだ酔っている人たちと片付ける人たち
音楽を流しているのは、小さな踏み台に乗って踊る、派手な衣装の男性だ。なにかの仮装だろうか?
よく見ると――大阪市長選などへの出馬で知られる、あのマック赤坂さんだった。若者たちにスマホのレンズを向けられながら、マックさんは無言のまま、ゆらゆらと海に漂うように踊り続ける。不思議なムードの中、ハロウィン前日の夜は更けていった。
翌朝6時過ぎ。記者は再び、渋谷駅周辺を歩いた。大量のゴミが散らばる路上には、まだまだコスプレ姿の人たちがうろうろしている。一晩中騒ぎ続けていたのだろうか。街の様子を撮影しているといきなり、2人組の男性(おそらく日本人)から、「ドント・テイク・ア・ピクチャー! ここはシブヤだ!」「ユーはポリスか? ポリスならキル(殺す)するぞ」となぜかカタコトの日本語で凄まれた。
こちらも「ソーリー、ソーリー」と繰り返していたら解放されたが、のちほど交番を覗くと、彼らとは別の若者たちが、グループ同士でケンカを起こしたらしく、警察から事情を聞かれていた。すぐ近くでは、路上に座り込んで眠る男性を、やはり警官が半ばひっぱたくようにして起こしている。
駅へと引き返す途中、ゴミ拾いのボランティアに集まった一団とすれ違った。二日酔いムードの街で、その表情は対照的なさわやかさだった。