沖縄県の尖閣諸島周辺の領海に中国の公船が侵入を繰り返しているが、日本政府の公式の立場は、あくまで「尖閣諸島をめぐる領有権の問題は、そもそも存在しない」というものだ。文部科学省もこの立場に基づいて指導するように求めている。それでも尖閣諸島をめぐる問題を「領土問題」だとする入試問題が後を絶たない。
政府見解がいかに浸透していないかが浮き彫りになったとも言え、こういったケースは「出題ミス」だという指摘もある。中にはミスを認めて採点をやり直した事例もある。
学習指導要領「解説」にも「領有権の問題は存在していないことを理解させる」とある
外務省のウェブサイトには尖閣問題について
「尖閣諸島が日本固有の領土であることは歴史的にも国際法上も明らかであり、現に我が国はこれを有効に支配しています。したがって、尖閣諸島をめぐって解決しなければならない領有権の問題はそもそも存在しません」
という記述があり、政府も国会や記者会見で同様の答弁を繰り返してきた。当然、学習指導要領にもこの見解は反映されている。例えば14年1月に改訂された中学校学習指導要領の「解説」社会編(公民的分野)には、北方領土や竹島については「未解決の問題が残されている」としながら、尖閣諸島をめぐる情勢については、
「現状に至る経緯、我が国の正当な立場を理解させ、尖閣諸島をめぐり解決すべき領有権の問題は存在していないことを理解させる」
とある。
だが、この認識は15年度の入試問題を見る限り、必ずしも浸透しているとは言えないようだ。
例えば大月短期大学(山梨県大月市)の「政治・経済」では、韓国、中国・台湾と「日本との間に未解決な領土問題があるが、それが発生している地域名をそれぞれ答えなさい」と出題。それぞれ「竹島」と「尖閣諸島」が正解だと想定していたとみられるが、それだと尖閣諸島の問題が「領土問題」だということになってしまう。
同短大では9月29日に、この問題が「出題誤り」だったとして全員が正解したものとして採点をやり直したことを発表。合否判定に影響はなかったという。
訂正しないと受験生が「尖閣諸島に領土問題が存在していると学習していくことになる」
聖学院大学(埼玉県上尾市)の「政治・経済」の問題では、軍事費が多い国のランキングの一部を空欄にして示しながら、
「日本は表の(A)との間で東シナ海に位置する島々をめぐって、また(C)とは日本海に位置する島々をめぐって、それぞれ領有権に関する未解決の問題を抱えている」
と(A)と(C)に入る国名を答えさせている。それぞれ「中国」、「韓国」という正解を想定していたようだ。
鹿児島国際大学(鹿児島市)の「政治・経済」では、教授と学生が会話をしている文章の中で、教授が湾岸戦争(1990年)のきっかけになったイラクのクウェート侵攻について話したのに対して、学生が、
「領土問題ですか。択捉島や国後島などの『北方領土』や竹島、尖閣列島の領土問題は今も未解決ですね」
と応じている。
入試の出題ミスや参考書の誤記・誤植を指摘している「全国入試問題研究会」(福岡市)では、こういった出題を
「中国の主張と合致する記述となっており、日本人の受験生を対象とした入試問題として不適切」
だと指摘。鹿児島国際大学のケースは回答に直接結びつくものではないが、過去問を解いた受験生が「尖閣諸島に領土問題が存在していると学習していくことになる」として訂正を求めている。