「女性の美」をめぐる多くの都市伝説の中で、最もインパクトが強いのが「セックスでキレイになる!」だろう。
巷のサイトでは、「昨晩お酒を飲んでからセックスしたら、女性ホルモン出まくったみたいで、肌つやがプリプリに」という納得派もいれば、「いちおう主人とは普通にしていますが、特に『キレイだよ』とほめられたことはありません」という懐疑派もいて......。
女性が一生のうちに分泌する女性ホルモンはスプーン1杯分
「セックスでキレイになる」という噂の根拠は、快感が高まると「最高の美容液」といわれる女性ホルモンのエストロゲンが分泌されるという点にある。ここで女性ホルモンの基礎知識をおさらいしよう。女性ホルモンにはエストロゲンと、プロゲステロンの2つがある。エストロゲンは肌や髪の潤いを保ったり、女性らしい丸みをおびた体を作ったりするのに欠かせないことから「美人ホルモン」と呼ばれる。一方、プロゲステロンは主に妊娠や授乳のための体作りをつかさどり、食欲を増進させることから「おデブホルモン」と呼ばれて嫌われがちだ。
このため、美容面ではエストロゲンばかりにスポットライトが当てられるが、プロゲステロンなしではエストロゲンは作られず、両者は持ちつ持たれつの関係にある。女性が一生のうちで分泌する女性ホルモンの量は、わずかティースプーン1杯分ほどという。「女性ホルモンは、量を増やすよりバランスが大切」といわれるのは、超微量な2つのホルモンが、デリケートな配合で役割分担をして女性の健康を支えており、ちょっとした崩れが不調を招くからだ。
ハエのメスはセックスでキレイになったか?
さて、「セックスをするとエストロゲンが分泌される」というのは本当なのか? 実は、多くの性科学者や美容専門家のサイトを見ても、いきなり「分泌されるのでキレイになるのは確か」と決めつけるだけで、根拠に乏しい。実際に性行為前後の女性の体を調べた研究も見当たらないようだ。唯一、「噂の都市伝説がついに科学的に立証された」と注目された研究がある。2012年に英国のイースト・アングリア大学の研究チームが、これまで謎の多かった「セックスペプチド」といわれる精液中のタンパク質の働きを解明したのだ。「セックスペプチドが女性の体内に入ると、複数の遺伝子が活性化し、栄養を吸収する効率がよくなり、免疫力も高まり、よく眠れるようになり、性欲も高まった」という。つまり、セックスすると女性の体に良い変化ばかり起こったのだ。
ただしこの研究、ショウジョウバエの交尾を対象にしたもの。研究チームのT・チャップマン博士は「交尾のメカニズムは同じなので、人間にも同様の原理があてはまるはずだ」と自信満々だが、ハエのメスがキレイになったかどうかについてはコメントしていない。
「キレイ」の秘密は、ときめくと出る脳内ホルモンにあった!
女性産婦人科医たちは懐疑派が多い。ある女医はサイトの中でこう語る。「セックスをしても女性ホルモンは分泌されません。まるでグングン出るようなイメージですが、一生でひとさじ分しか分泌されないのですよ。セックスでキレイになれるなら、それを仕事にしている人は、女優以上にキレイな人ばかりになりますね」。
『女医が教える本当に気持ちのいいSEX』でおなじみの宋美玄さんも、サイトの中でこう指摘する。「女性ホルモンは乳がんや子宮体がんに影響を与えますから、もしセックスで分泌されるなら、セックスをたくさんしている人は皆がんになってしまいます。『夫がセックスレスだから、女性ホルモンが不足して体が不調になった』と産婦人科に来院する女性が多い。だから私は、新著で『女のカラダ、悩みの9割は眉唾』で、怪しい情報を流す女性誌にケンカを売っています」。
う~む。でも、よく「恋をしている女性はキレイに見える」という点はどうなのだろうか? 専門家のサイトを見ると、好きな相手と気持ちのいいセックスをしたり、ときめいたりすると、脳内から心を安らがせる「幸せホルモン」セロトニン、集中力を高める「やる気ホルモン」ドーパミン、そしてモルヒネの6倍の効果がある「快楽ホルモン」エンドルフィンが分泌されるそうだ。これらが女性を生き生きとさせるのだ。「ときめき」の対象は音楽やスポーツ、仕事でもいい。好きなことに打ち込んでいるあなたは輝いて見える。くれぐれも「セックスでキレイにしてあげる」という口説き文句に乗らないように。