安倍晋三政権が昨年までの賃上げ要請に続き、経済界への圧力を強めている。政府は2015年10月16日、企業に積極的な投資を促すための「官民対話」の初会合を開き、過去最高水準に積み上がった内部留保を設備投資などへ回すよう要請した。
景気が足踏みを続ける中、設備投資を内需拡大の切り札にしたい狙いだが、経済界は慎重姿勢を崩さず、対話はかみ合っていない。企業の経営判断に政治が介入することへの反発も強く、官民対話の成否は見通せない。
「投資しなければ重大な経営判断の誤り」と甘利経済相
「今こそ、企業が設備、技術、人材に対して積極果敢に投資をしていくべき時だ」。安倍首相は官民対話の初会合で経済団体のトップらを前にこう強調した。
政府が、民間企業の経営判断に基づいて行われる投資に口出しするのは異例のことだ。ここまで踏み込む背景には「企業収益は過去最高となったが、投資の伸びは十分ではない」(安倍首相)との強い不満がある。
アベノミクスが演出した円安も追い風に、企業収益は高水準で推移。2014年度の企業の内部留保は354兆円と過去最高水準に積み上がった。一方、2015年4~6月期の実質国内総生産(GDP)改定値では、設備投資が速報値の前期比0.1%減から0.9%減へ大きく下方修正された。同7~9月期のGDPが2四半期連続のマイナス成長に陥る可能性も指摘され、政府が描いてきた「企業収益が伸びて雇用や設備投資が増え、働く人の賃金が上がり、消費も拡大する」という好循環シナリオはつまずいている。
甘利明経済再生担当相は初会合で「過去最高の原資がありながら、投資を行わないのは企業経営者として重大な経営判断の見誤りになる」といら立ちを隠さず、経済界へハッパをかけた。