「遺伝子の守護者」が大きな体を守っていた!
研究チームは、人気サーカス団の協力も得て、ゾウの全ゲノムを解析した。特に、がんの増殖を抑制するタンパク質で「遺伝子の守護者」と呼ばれる「p53」に着目した。そして、p53のアミノ酸の配列を決める遺伝子のコピーを調べると、人間ではコピーは2つしか持っていないのに、ゾウは38個も持っていた。これは、ゾウが長い進化の過程で、がんの発症を阻止する遺伝子の追加コピーを次々と作成し、がんにならない体質をつくってきたことを意味する。
また、ゾウの血液と健康な人の血液、そしてがんになりやすい家系の人の血液の3つを比較して免疫能力を調べた。その結果、ゾウはがん化する恐れがある細胞を、いち早く見つけて殺す攻撃的なメカニズムにたけていることが判明した。その能力は健康な人の2倍、がん家系の人の5倍あるという。
チームリーダーのジョシュア・シフマン医師は「ゾウががんにならない仕組みが解明された今、それを人間に応用できないか考えている」と語っている。また、論文の不随筆者である英ロンドン大学のメル・グリーブ博士はこんな皮肉のコメントを寄せている。
「本当の謎は、ゾウに比べ、なぜ人間のがんに対する防御力がこれほど弱く、発症率がこれほど高いかだ。その答えは人間の社会進化が異常に速いことにあるだろう。ゾウは喫煙することも、過剰にカロリーを摂取することもない」