70歳以上でも働ける企業が増えている。厚生労働省によると、2015年に70歳以上でも働ける企業(条件付きを含む)は約3万社にのぼり、前年と比べて1.1ポイント増の20.1%に達した。
増加は2年連続で、初めて2割を超えた。「元気」な高齢者が増えるなか、いまや「70歳以上」も重要な戦力ということらしい。
「定年制廃止」の企業 約3万社のうち2.6%
厚生労働省が2015年10月21日に発表した「2015年の高年齢者の雇用状況の集計結果」によると、「70歳以上まで働ける企業」は2万9951社。14年と比べて2211社も増えた。比較できる2009年以降で過去最高だった。
約3万社のうち、希望者全員70歳以上の継続雇用する企業は4.1%、条件付きで70歳以上の継続雇用する企業が7.5%、70歳以上で定年制度を設けている企業が1.0%、定年制を廃止した企業が2.6%あった。その他の制度も4.9%だった。
また、70歳以上まで働ける企業を規模別にみると、中小企業では前年比2034社増の2万7994社。大企業では177社増の1957社だった。
ちなみに、希望者全員が少なくとも65歳まで働ける企業は14年と比べて4500社、1.5ポイント増の10万8086社となり、全体の72.5%を占めた。
高齢者雇用が増える一方で、最近は若手社員の離職率が高くなり、企業は人材がなかなか定着しない悩みを抱えている。それもあって、やる気や能力のある高齢者に定年後も継続して働いてもらおうと、考え方を変えた企業は少なくない。つまり人手不足が、企業の高齢者雇用が進展する要因の一つだ。
人手不足は中小企業ほど深刻。それもあって、70歳以上の高齢者雇用も中小企業ほど熱心ということかもしれない。
もう一つの要因には、2013年4月に施行された改正高年齢者雇用安定法がある。厚労省は65歳までの安定雇用を進め、高齢者が年齢にかかわりなく働き続けることができる「生涯現役社会」の実現に向けて、企業に「定年制の廃止」や「定年の引き上げ」、「継続雇用制度の導入」のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を講じるよう義務付けている。
さらには最近の、安倍政権が掲げる「1億総活躍社会」の実現に高齢者雇用が合致することもあり、国をあげて高齢者の雇用環境の整備を後押ししている。
厚労省は「まだまだ高齢者雇用を確保する措置が未実施の企業もありますから、今後、指導していきたいと考えています」と話している。
「仕事への姿勢などは若手に見習ってほしい」
一方、高齢者からみれば、厚生年金の支給開始年齢の引き上げは、大きな「働く」きっかけになっている。年金の財源不足の問題から、厚生年金の受給開始年齢は2013年度から25年度(女性は5年遅れ)までに60歳から65歳に引き上げられる。企業が定年制を65歳以上にしたり、継続雇用制度を設けたりするのも、年金支給の年齢引き上げに対応するためだが、「働かなくては食べていけない」と考える高齢者は少なくない。
そうした中で、高齢・障害者雇用支援機構は「70歳いきいき企業100選」で、70歳以上の従業員が働いている企業を紹介している。食品加工業や外食、病院や介護サービス、運送・タクシー業、清掃・ビルメンテナンス、縫製業などの70歳定年制や定年を設けていない企業だ。
体力低下や仕事内容に応じて賃金を抑えたり、非正規社員での雇用が多かったりするが、中小企業では専門的な知識を必要とする職場や技術職、年季を経て熟練を要する、いわゆる職人肌の高齢者が正社員として雇われているケースも少なくない。若者が敬遠しがちな職場が目立つようでもある。
72歳の男性が勤務する、ある清掃業者は「休みが少なく、遅刻するようなこともない。仕事への姿勢などは若手に見習ってほしい」と高く評価する。
半面、ある運送業者は「体力的なこともありますからね。現役のように、すべての仕事を任せられるかといえばそんなことはありません。勤務時間を短縮したり交代制を導入したり、設備を整えたりしてようやくです。それでも勤められるのは長くて4、5年。なかなか厳しいです」と漏らす。