「本物のビール」が11年ぶりにプラスの異変 酒税見直しで各社が営業方針を変え始めた

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   ビール大手5社が発表した2015年7~9月のビールの出荷量は、前年同期比0.3%増の5871万ケース(1ケースは大瓶20本換算)となり、わずかながら11年ぶりのプラスとなった。発泡酒や第三のビールを含めた「ビール類」では2.5%減のため、全体としてシュリンクしていることに違いないが、近年ではちょっとした異変。

   発泡酒などの税率を上げ、ビールは減税するという酒税の見直しの動きを受け、原点のビールを強化する各社の戦略が背景にある。

  • 各社ビール部門のテコ入れ策に知恵を巡らせる
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キリンは「嵐」、サントリーは「EXILE」をCM起用

   盛夏も過ぎ去った9月上旬にビール強化の狼煙を上げたのはサントリービール。9月8日発売のビールの新商品「ザ・モルツ」のテレビCMに、若者層から30~40代にかけて抜群の人気を誇る「EXILE(エグザイル)」グループを起用。消費者の高齢化が進むビール市場で飲用者の年齢引き下げも狙った。

   ビール市場が縮小するなか、サントリーは高級ビールの「ザ・プレミアム・モルツ」、第三のビール「金麦」を武器にシェア拡大を図ってきたが、アサヒビールの「スーパードライ」が首位を占めるビールの王道350ミリリットル缶では浸透しきれていなかった。

   「ザ・モルツ」は1986年から販売してきた「モルツ」の後継商品。「コクやうまみにこだわった」製法を導入し、新たな消費者獲得を狙う。新商品効果もあって、9月の実績は134万ケースと今年の目標の約7割を達成するペースとなっている。

   ビール強化に取り組むのは、今年3月、磯崎功典氏が社長に就任して体制を一新したキリンホールディングスも同じだ。キリンは昨年まで5年連続でビール類のシェアが低下。数量を重視する経営に転換し、とりわけビールの主力ブランド「一番搾り」に注力している。5月には全国9工場ごとに違った味わいを楽しめる限定商品を発売、人気グループ「嵐」を起用したテレビCMをふんだんに流して認知度を上げることに成功した。

   その結果は数字にも表れており、2015年上半期(1~6月)のビール類出荷量で、キリンのシェアは0.9ポイント増の34.0%となり、6年ぶりのシェアアップとなった。上半期は業界全体の出荷量が前年同期比0.6%減と振るわないなか、大手で唯一、出荷量を増やしたのもキリンだった。7~9月期も販促キャンペーンを実施した「一番搾り」は勢いを持続したとみられている。

   迎え撃つ形のアサヒビール。良くも悪くも日本で消費されるビールの半分以上を占めるとされる「スーパードライ」の一本足打法で、有効な手を打てていない、との指摘も業界では聞かれる。昨年発売した高級ビール「ドライプレミアム」や、今春投入したスーパードライの派生品「エクストラシャープ」もさほど勢いがないのが実情だ。しかし主戦場のビールで他社に負けるわけにもいかず、ドライプレミアムは9月にリニューアルしてテコ入れを図った。2016年に向け、その浸透度が問われる。

発泡酒、第三のビールは値上げの方向

   各社がビール類の中でもビールに力を入れる背景には酒類の税制の問題がある。与党が昨年末にまとめた2015年税制改正大綱では、「酒類は税率格差を縮小・解消する方向で見直す」と明記された。350ミリリットル缶でビールなら77円、発泡酒なら47円、第三のビールなら28円と大きな格差のあるビール類について、ビールを減税する代わりに発泡酒と第三のビールを増税し、55円程度にそろえようというものだ。財務省にすれば、発泡酒や第三のビールのおかげで取れるはずの税金を取り逃してきたとの思いもある。

   この酒税見直しが実現すれば、減税の恩恵を受けるビールの需要が高まることは必至。もはや「ビール減税の助走期間」(ビール大手幹部)に入っており、テコ入れしなければライバルに後れをとりかねないわけだ。

   しかしここへ来て風向きが変わった。ビール類の税体系見直しは2016年度税制改正で見送られるという報道が相次いでいる。消費税の軽減税率を巡る混乱でビールにまで手が回らないというのが理由だ。とはいえビール類の税率見直しは既定路線であり、遠からず統一される流れは変わらないとみられ、各社はビールへのテコ入れ策に知恵を巡らすことになりそうだ。

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