放送大学の客員教授が安倍晋三政権に批判的な内容だけを試験問題文に書いたのは不適切だとして、大学側が学内サイトに問題文を載せる際にその部分を削除していたことが分かった。
「現在の政権は、日本が再び戦争をするための体制を整えつつある」
客員教授をしている佐藤康宏東大教授(60)は、2015年7月26日の日本美術史の単位認定試験でこんな導入部から始める問題を出した。
出題した佐藤教授は、削除の撤回を求める
その問題は、戦時中に画家が政府に弾圧されたり協力したりした歴史の解説から画家名の誤りを見つけるというものだった。
問題文では、さらに続けて次のように書かれていた。
「平和と自国民を守るのが目的というが、ほとんどの戦争はそういう口実で起きる。1931年の満州事変に始まる戦争もそうだった。それ以前から政府が言論や報道に対する統制を強めていた事実も想起して、昨今の風潮には警戒しなければならない。表現の自由を抑圧し情報をコントロールすることは、国民から批判する力を奪う有効な手段だった」
佐藤教授が東大出版会の小冊子「UP」10月号に載せた投稿や毎日新聞の10月20日付記事などによると、試験を受けた学生から当日中に疑義のメールが大学側に届いた。そこでは、現政権への批判、審議中の事案への意見は、教育者による思想誘導と取られかねない、と指摘があったという。
大学側は試験の2日後、メールを元に、学内サイトに問題文を載せる前に前出の部分を削除するか修正するように求めた。しかし、佐藤教授は、趣旨に賛成・反対のいずれでも解答に差がなく、正答率も高かったとして、この要求を拒否した。
ところが、副学長からその後、前出部分が不適切だったため削除するとの通告書が届いた。8月7日には、削除された問題文が学内サイトに載ったが、佐藤教授は、削除の撤回を求めた。