阪神が新監督を発表し、巨人は監督が辞任を表明...。
2015年10月17日にヤクルトが日本シリーズを決めた試合の前後の出来事である。球界は節操がなくなったのか。
全国紙も「原辞任」を1面に掲載
その日のクライマックスシリーズ、ヤクルト-巨人第4戦は3万4000人を超える観衆で神宮球場は埋まった。「満員札止め」で入場できないファンもいた。セ・リーグ代表として日本シリーズ出場をかけての勝負。ヤクルトは勝てば14年ぶり、巨人もプライドをかけての決戦だった。
クライマックスシリーズはいまや、プロ野球の一大イベントとして人気を集めている。
ところが、裏ではストーブリーグが別に進行していた。
当日の試合が始まる前、阪神が来シーズンの金本知憲新監督を発表。そして、試合が終わると、巨人の原辰徳監督が辞任の意思を明らかにした。
阪神は
「雰囲気を一新し、腰を据えてチームを一から作っていきたい」
と説明し、新監督へ期待を寄せた。一方、原はこう語った。
「そろそろ潮時、と考えた。新陳代謝が必要だと思う」
阪神、巨人といえば球界一、二を争う人気チーム。そこの監督人事となれば、ニュース性は高い。メディアとすれば、ヤクルトの勝利よりそちらに比重をかけるところも少なくない。
事実、一部全国紙の中には、翌日の朝刊で、一面記事にヤクルトの日本シリーズ進出より「原の辞任」を持ってきたところもあった。
長嶋、王は「失礼に当たる」と言っていた
これまでプロ野球では、球界全体にまたがるイベントが行われているときは、監督人事など余計な動きは自粛していた。
「そういうときに動くのは失礼にあたる」
かつて巨人の長嶋茂雄や王貞治はそう言っており、事実、そのように実践していた。
かなり前、巨人―西武の日本シリーズの真っ最中に、西武監督が今季限りで辞任とのニュースが流れたときには、西武は大きな顰蹙を買った。それ以後は、長く保たれた「節操」が取り戻されていた。
ヤクルトにしてみれば、冷や水をかけられたようなものである。阪神も巨人も1日を急ぐものではなかっただろう。阪神は既に監督交代が明らかになっていたし、巨人も慣例の監督本社報告がある。
その日に言わなければならない事情があったのだろうか。
(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)