仏自動車大手ルノーと日産自動車との資本関係見直しが突然、浮上している。ルノーの大株主、仏政府が日産・ルノー連合への関与を強めようとしているのに対抗する狙いがある。「連合」とはいえ、2社の間の力関係も微妙で、仏政府を含めた三つ巴の関係がどう転ぶか、関心を集めている。
まず、2社の資本関係を見てみる。日産は経営難に陥った1999年、ルノーから出資を受け、日産もルノー株を持ち合っており、現在は、ルノーが日産株の43.4%を持つ筆頭株主、日産がルノー株の15%を保有する。2社の最高経営責任者(CEO)をカルロス・ゴーン氏が兼務しているのも、よく知られたところだ。
日産保有のルノー株に議決権がない
そこで問題なのが、ルノーと仏政府の関係。仏政府は現在、ルノーに対する議決権の約15%の株式を保有しているが、14年に「フロランジュ法」が制定され、仏企業の株式を2年以上保有する長期株主の議決権を2倍にすることになった。企業側はこれを拒むことができるが、その条件が株主総会での3分の2の反対。15年4月の総会で、経営側は反対を訴えたが、同法適用反対は60.53%にとどまり、仏政府のルノーに対する議決権は、来春には約30%に上昇することになった。
一方、フランスでは、40%以上の出資を受ける企業が保有する出資元企業の株式は議決権が認められないという法律もあるため、日産保有のルノー株に議決権がない。仮定の話だが、もし日産保有株に議決権があれば、株主総会で「フロランジュ法」適用を拒否できた計算になる。
そこで浮上したのが、資本関係の見直しで、ルノーが持つ日産株の比率を40%未満に引き下げ、日産保有のルノー株に議決権を持たせること。直接には、仏政府のルノーへの影響力を弱める効果がある。
仏政府は雇用確保のため議決権比率に固執
仏政府は、春の株主総会に向け、一時的に議決権比率を19.7%に引き上げてまで、「フロランジュ法」適用に固執した。理由は国内雇用の維持だとされる。約5年前、ルノーの業績が悪化した際、ゴーンCEOはリストラ策を打ち出したが、仏政府の注文で、小型車の生産をトルコへ移す計画は撤回を余儀なくされた。日産が2014年、欧州、中東、アフリカ向け小型車「マイクラ(日本車名マーチ)」の次期モデルを、ルノーのパリ近郊の工場で生産すると発表した時も、「インド工場の方が生産コストは安いはずで、フランスの工場の稼働率維持が目的だ」(外資系証券)と批判の声も上がった。仏政府の意向、特にオランド社会党政権の「地元雇用重視」の表れというのが業界の常識だ。
ルノーとしては、大株主である政府に正面切って敵対はできないが、経営の自由は確保したいというのが、今回の資本関係見直しの動機。ただし、日産との関係は微妙な面もある。かつて、日産に出資して「救済」したが、欧州の債務危機などを通じ、最近はルノーの経営不振が目立ち、日産がルノーを助ける局面が目立つ。業界では「日産はルノーの財布」と皮肉る声も聞こえるが、実際、ルノーの前期決算は純利益の約4分の3が日産からの持ち分利益だ。
個人株主から「ルノー優位の関係を見直すべきだ」
日産の立場はさらに複雑だ。ルノーに出資していても議決権もない「不平等条約」状態にあることに、かねて不満の声があり、15年6月の日産株主総会でも出席した個人株主から「ルノー優位の関係を見直すべきだ」との声が出た。経営難のころならともかく、日産の業績が上回っているだけに、株主の不満は強まる一方だ。経営的にも、前記のマイクラ次期モデルをルノーのパリ近郊の工場で生産する問題でも、純粋に日産の利益とは相いれない決定を強いられた面がある。ルノーの持ち株比率引き下げと保有ルノー株の議決権行使という今回の資本関係の見直しが実現すれば、ルノーとの力関係で日産が押し戻す形になるとの期待がある。
ただし、そうした緊張関係をはらみつつも、2社間の関係が、これを通じて薄まるとみる関係者はほとんどいない。
2社のCEOを兼務するゴーン氏はこの間、「規模がないと多くの戦いに敗れてしまう」と繰りかえし述べている通り、販売台数は2社計で850万台と、トヨタ自動車、フォルクスワーゲン(VW)、ゼネラルモーターズ(GM)に続く4位グループにあり、この規模は今後の生き残りに不可欠だ。だからこそ、2社は調達や研究開発から人事まで、統合を着々と進めてきた。
ただし、ゴーン氏が「資本関係にかかわらず、両社は対等なパートナー」と強調しようとも、時に利益相反にも見える関係は微妙であり、同氏あればこそ、まとまってこられたというのが、大方の見方だ。仏政府がルノーへの発言力を強め、ルノーを通じて日産の経営にも口を出すような事態になれば、2社の力関係に激震が走る可能性も否定できない。
日産側は当面、ゴーン氏と仏政府の神経戦を見守るしかなさそうだ。