「電子書籍のカスタマーレビュー依頼」――今、こんな「仕事」がネット上で取引されている。Amazonなど電子書籍を販売する大手通販サイトの口コミ欄に、金銭を得て特定商品への賞賛レビューを投稿する作業だ。
企業が個人に仕事を発注する「クラウドソーシングサービス」を経由し、1件およそ50円の低価格で発注されている。
「参考になります」「勉強になりました」、不自然な絶賛レビュー
2015年6月からAmazonで販売が始まった電子書籍「シムシスブックス」シリーズ。IT企業「SIMSYS」(東京都杉並区)が発行し、FXやNISAから「ご近所トラブル」、「集団的自衛権問題」まで幅広いテーマを扱う。いずれも価格は500円以内で、Amazonの有料会員なら無料となる。10月15日17時までは約30商品が発売されていた。
しかし、口コミ欄のカスタマーレビューには不自然さが漂う。いずれも「★5つ」の最高評価を付けて「参考になります」「勉強になりました」と絶賛している一方、内容にほとんど触れていない。レビュワーも「シムシスブックス」だけをレビューしていたり、レビュー済み商品が1つだけだったりと、どこかおかしい。
実は、これらのレビューには裏があったようだ。大手クラウドソーシングサイト「ランサーズ」上で、こちらも15年6月頃から、「シムシスブックス」の商品ページに好意的なAmazonレビューを投稿する「仕事」が発注されていたのだ。
仕事内容を紹介するページはほぼ閲覧できなくなっているが、グーグルのキャッシュ(編注:サイトの内容を一時的に検索エンジンのデータベースに保存したもの)は今もおおかた残っている。それを見る限り、発注していたのは2つのアカウントで、対象となったタイトルは20以上に渡る。レビュー1件に対する報酬は54円とわずかながら、すでに約60件以上の契約が成立していた。仕事の内容は、指示されたタイトルの電子書籍をAmazonで購入、最高評価の「★5つ」を付けて商品ページに20文字以上のカスタマーレビューを投稿するといったものだ。
発行社の電話番号がつながらなくなった
注意書きに「見出し/レビューには誹謗中傷に当たるようなコメントや書籍のイメージを損なうようなコメントを記載しないようにお願い致します」とあり、金銭を得た上で好意的な口コミを投稿する、いわゆる「ステルスマーケティング」の可能性が高い。ステルスマーケティングはAmazon、ランサーズ、いずれの利用規約でも禁止されている。
また、別のアカウントがランサーズ以外のクラウドソーシングサイトで同じ仕事を発注していることも確認できたが、これらのアカウントが同一人物かどうかは不明だ。
「ステマ」と捉えられかねない仕事が発注されている事実を、ランサーズ側は把握しているのか。同社広報担当者はJ-CASTニュースの取材に対し10月15日、「当件については注視しています」と答えた上で、「弊社では当該アカウントの発注した案件すべてを規約違反のステルスマーケティングと判断しました」と明かした。運営が取った「アカウント制限」の制裁措置をうけ、すでに2つのアカウントは退会しているという。今後は「公開条件などを変更し、当該アカウントに関するページを一般ユーザーの目に触れないようにする」としている。
一方、SIMSYSにも取材したが、15日に電話をかけた1度目は記者が話している途中で担当者に切られた。ほどなく、2度目に連絡した際は、呼び出し音も鳴らない状態で、その後しばらくしてかけた3度目には、「ただ今電話に出ることができません」と機械音での応答があるだけだった。