河野洋平・元衆院議長が2015年10月15日、東京・有楽町の日本外国特派員協会で会見し、世界記憶遺産の登録をめぐり国連教育科学文化機関(ユネスコ)への分担金支払いを凍結すべきだという議論が出ていることについて「まったく恥ずかしい話」だと強く非難した。
強硬論の発端になった「南京大虐殺文書」の登録については、「両国がもっと真摯な資料に基づく議論をする必要がある」などと述べ、明確な賛否は示さなかった。
メディアに圧力かけようとして笑われた件と「同じ性質だと思う」
河野氏は、記憶遺産の登録が決まるまでの過程を透明化すべきだとの考えを示す一方で、分担金の削減については「ユネスコの活動に大きな影響を及ぼす」として、
「まったく恥ずかしい話だと私は思う。ユネスコが今世界で果たしている役割、その重要性、有効性というものは、相当大きなものだということは世界の人たちが認めていると思う」
などと非難。6月25日に行われた自民党内の勉強会「文化芸術懇話会」で
「マスコミを懲らしめるには広告料収入がなくなるのが一番。経団連に働きかけてほしい」
といった発言が出て問題になったことを念頭に置いたのか、河野氏は
「これはかつて政党の中で、自分たちに都合の悪い記事を書く新聞に対して『広告主に言って広告を止めたらいいじゃないか』なんていう議論があってみんなから笑われたことがあるが、同じ性質のものだと思う」
とも述べた。
南京事件「なかった」論は「まったくやるべきではない」
「南京大虐殺文書」の登録にそのものについては特段の賛否を示さず、文書に書かれている事実関係の精査が重要だとの考えを示した。
「問題は、そこで何人の人が殺されたかというところに、両国の資料が違っている(点)。一方的に中国側の資料で記憶遺産(に登録)ということを言われると、日本側としては『そうですか』というわけにはいかない、というのがおそらく政府の立場だろう」
「こういうやりとりで、何か南京事件そのものが『なかったんじゃないか』『事実と違うのではないか』という議論に持って行こうとするなら、それはまったくやるべきではないこと。事実は事実として認めながら、ただ、記憶遺産として残す以上は、より正確なものを残すというために、両国がもっと真摯な資料に基づく議論をする必要がある」
自身が「河野談話」で関わった従軍慰安婦関連の資料を登録する動きが進んでいることについても、同様の考えを示した。
「日本側は、日本側のこれまでの考え方を述べることになるだろう。それは、生存しておられる慰安婦の方々に対する我々の気持ちも十分に伝えなければならないと思うし、記録に残る前には、どういう形の記録に残るかについて、よく話し合う必要があると思う」