安倍晋三首相の携帯電話料金引き下げの大号令が波紋を広げている。
事実上の競争がなく、海外の主要先進国と比べて高いといわれている日本のスマホ料金の引き下げは、ユーザーにとっては朗報だが、民間企業の価格競争に首相が介入することについては批判もある。
有識者会議の前に大臣が「私見」
2015年9月11日の経済財政諮問会議で首相は「料金の高止まりが家計を圧迫している」などとして、「携帯料金の家計の負担軽減は大きな課題だ」と発言し、高市早苗総務相に対応を指示した。これを受けて高市総務相は9月29日の閣議後会見で「有識者の意見をうかがい、携帯電話事業者はじめ関係者からのヒアリングも行い、課題を洗い出しながら、年内をめどに一定の結論を得たい」と述べ、総務省は10月19日から有識者会議を開き、具体的な軽減策を議論することになった。
高市総務相は「現時点では、私自身が思いつく方向性といったレベル」と断りながらも、(1)データ通信のライトユーザーや通話かけ放題が不要な人を対象にした料金プランの多様化、(2)端末の値引きから、サービス・料金の競争への転換、(3)仮想移動体通信事業者(MVNO)の低廉化、多様化を通じた競争――を挙げた。企業間の競争を高めれば、サービスが向上し、価格は低下するという「市場原理」を重視する高市氏らしい発言と言えるかもしれない。
ただ、首相の指示を受けた主務大臣が、私見とはいえ、これから始まる有識者会議の議論を先導するような発言をするのも珍しい。
一方、安倍首相が主張するように、「携帯料金が家計の負担となっている」のも事実だ。総務省の家計調査によると、1世帯(単身者を含む)当たりの携帯電話通信料は2004年の月約5300円が、2014年は約7200円に増加している。2015年7月に総務省が発表した「電気通信サービスに係る内外価格差調査」によると、通信量が月5ギガバイトのスマホユーザーの通信料金は、世界主要7都市のうち、東京はニューヨーク、デュッセルドルフに次いで3番目に高い。ロンドン、パリ、ソウル、ストックホルムは東京より安価だ。