メスと交尾をすると、それまで幼い子を攻撃していたオスが子育てをするようになる――。理化学研究所脳科学総合研究センターの黒田公美チームリーダーらが、オスのマウスは特定の脳領域が活性化して「父性」に目覚めることを突きとめた。2015年9月30付の欧州科学雑誌「EMBOジャーナル」に発表した。
マウスでは、交尾経験のない童貞オスは、子の養育をしないどころか、かみついて攻撃することが知られている。ところが、交尾してメスと一緒に過ごすと、自分の子かどうかにかかわらず、攻撃せずに世話をするようになる。それはなぜか、謎だった。
そこで研究チームは、子を養育するオスと攻撃するオスとでは脳の働きがどう違うのか調べた。その結果、養育するオスでは「内側視索前野」という部位が活性化し、攻撃するオスでは「分界条床核」という部位が活性化していた。この2つの部位の関係を調べると、メスと交尾することによって「内側視索前野」(養育)が活性化し、そこから「分界条床核」(攻撃)の働きを抑える信号が出ていることがわかった。つまり、セックスで「攻撃」から「子育て」に脳のスイッチが切り替わるらしいのだ。
研究チームでは「今後は霊長類でも同じ仕組みがあるか調べていけば、人間の父子関係の問題可決に役立つ知見が得られるかもしれない」としている。