牛丼大手3社が2015年9月下旬から10月にかけて、期間限定の値下げセールに踏み切った。かつては、各社が客足を取り戻すため春や秋の年中行事として競い合った値下げセールだが、円安による原材料高や消費増税で値上げを余儀なくされるなか、最近は姿を消していたが、相次ぐ値上げで客数が減少していることから、それぞれ数年ぶりの再開となった。一時的に客を呼ぶ効果があるのは間違いないが、客離れは深刻で、再び泥沼の値下げ競争に入る可能性も否定できない。
3社のうち「すき家」は9月29日~10月8日、沖縄県を除く全国の店舗で、牛丼の価格を一律60円引き下げた。通常350円の並盛りが290円と、200円台になるところがアピールポイントだった。「吉野家」は10月1~7日、西日本限定で牛丼を一気に80円値下げし、通常380円の並盛りが300円だった。
吉野家 1年間で280円→300円→380円
一方、「松屋」は10月15~22日、関東地方を中心に販売する「プレミアム牛めし」を50円値下げ、並盛りは通常の380円から330円になる。また、同じ期間に一部店舗で「牛焼肉定食」を通常より90円引きの500円とする。ちなみに「プレミアム牛めし」というのは、仕入れ段階から冷凍ではなくチルドの牛肉を使うことで、うまみや柔らかさを味わえるという商品。従来からの「牛めし」もあるが、店舗ごとにいずれかを扱う決まりで、同じ店で「プレミアム」と併売されることはない。
3社の値下げセールは「すき家」が2013年12月、「吉野家」は2012年4月、松屋は2013年4月以来となる。それなりに久々だが、ここへきてそろい踏みとなったのは興味深い。
影響しているのは客足の減少だ。それを引き起こしたのは各社の相次ぐ値上げに他ならない。
牛丼の値段はめまぐるしく変わるので、「あれそうだったかな」と思う方もいるかもしれないが、実は消費増税直前の2014年3月までは並盛り一杯280円で、3社横並びだったのだ。
横並びを崩したのが消費増税で、まず「吉野家」が2014年4月に20円値上げした。7月に「松屋」は先述した「プレミアム牛めし」(380円)を導入することで関東圏を中心に実質値上げ。増税直後には気を吐いて逆に10円値下げした「すき家」も、耐えきれずに8月には21円アップし牛丼並盛りは291円となった。
「すき家」の場合、原材料高だけでなく「ブラック企業」のレッテルをはられて人手確保にも費用がかかるようになり、2015年4月には牛丼並盛りを291円からさらに350円に値上げした。この結果、大手3社の牛丼一杯は6年ぶりに「300円超え」になった。「デフレ脱却」の動きと言えなくもないが、こうした値上げは需要が高まることによるものではなく、コスト増によるものであり、消費者離れを呼んでしまった。
「すき家」の場合、2015年4~9月の6か月で、既存店の客数は前年同期比9.8%減となった。1年前の2014年の4~9月の6か月の既存店の客数は前年同期比0.4%減とほぼ横ばいだった。これは消費増税でも「1杯200円台」を死守した効果とみられる。「すき家」が牛丼並盛りを291円から350円に値上げしたのは2015年4月15日。その後の4~9月の客数が約1割減った背景に350円への値上げあることに疑いの余地はない。
サラリーマンは弁当持参で自衛
一方、「吉野家」が牛丼並盛りを300円から一気に380円に値上げしたのは2014年12月。円安などによる牛肉の調達コストの上昇を受けてやむなく踏み切った。「うまい、やすい、はやい」のスローガンを守るにはギリギリの決断だったとされるが、やはり吉野家も客離れを招いてしまった。2015年1月に既存店客数が前年同月比17.8%減となって以降、今年9月までの間、8月を除いて10%超の既存店客数前年割れが続いた。「松屋」の既存店客数も振るわない結果が続いている。
牛丼値上げの影響で客足はコンビニの総菜などに移ったほか、「昼は弁当持参」というサラリーマンが増えたとみられている。「吉野家」の「牛丼一筋80年」のテレビCMが流れていた1980年頃から30年以上経った現在、100年超の歴史を持つにいたった日本独自のファストフード牛丼も、本当の曲がり角を迎えた可能性がある。