2015年10月5日に発覚した巨人選手の野球賭博事件はあちこちに飛び火するだろう。今シーズンの巨人のクライマックス出場、2020年の東京五輪の追加種目、totoでの野球くじの新設など、余談を許さない。
巨人が自ら明らかにした内容は、福田聡志投手が野球の賭けをしていたというもので、高校野球や大リーグに加えプロ野球、それも自分が所属する巨人の試合も対象だった。関連して笠原将生投手の名前も挙がった。
元特捜部長が「厳正な手続き」「プロ野球の信頼を失墜させる行為で、深くお詫びします」
「プロ野球にとって大事な時期でもあり、併せてお詫びします」
巨人の久保博球団社長は記者会見で頭を下げた。プロ野球はセ、パとも順位が決まり、ポストシーズンの戦いが始まる直前であり、巨人はどこへも顔向けできない状況に置かれた。
発覚は賭けの負け分の取り立てからだったという。
怒ったのは熊崎勝彦・日本野球機構(NPB)コミッショナーだ。
「至極残念な出来事だ。ファンや関係者が納得できるような厳正な手続きを進めるのが裁決者としての権限であり役割だと認識している」
元東京地検特捜部長、最高検察庁検事。リクルート事件などを手がけ、「落としの熊崎」と呼ばれた人だけに、「こここそ出番」といった決意がうかがえる。
即、調査委員会を編成し、会合を開いた。
この事件はさまざまなところに影響することは必至である。
まず、巨人のクライマックス出場だ。第1ステージの試合は、どんな雰囲気になるのか、予測がつかない。球団には「出場を辞退しろ」とのファンからの電話が入ったという。
問題は2020年の東京五輪への影響だ。せっかく推薦競技に決まったのに、野球賭博が起きてしまっては、世界にどう説明するのか。組織委員会は新国立競技場、エンブレムに次ぐとんでもない難問を突きつけられたことになる。
ただし、冷静に考えることが必要で、野球という競技が悪いのではないから、そこをどう説明するかの努力が求められる。予想される事態は(1)そのまま追加種目となる(2)野球を省いてソフトボールのみ採用(3)プロ野球選手を除くアマ選手だけ参加する条件付きで野球採用-といったところか。
toto資金調達では懸念が的中
怒り心頭は文部科学省。五輪の資金を生み出すための野球totoが不可能になりそうだからである。この計画が持ち上がったとき、過去に賭博事件があったことを指摘して疑問の声が上がったが、まさにその懸念が当たってしまった。
「無理だろう」
下村博文文科大臣も遠藤利明五輪担当大臣もそう発言して肩を落とした。あきらめた、ととらえていいだろう。
さらに野球少年たちへの影響も心配される。すでに指導者は説明に困っている。
昭和40年代後半のいわゆる「黒い霧事件」では、野球だけでなく公営競技にも波及した。プロ野球では有名選手が何人も「永久追放」になった。今回の事件発覚で、当時の出来事が蒸し返され、写真や名前が出ることもあるだろう。
巨人はチームの指導者、選手、球団職員らから事情聴取を行う。球界の盟主の苦悩が続く。この事件は今後、どうなっていくのか、先が見えない。他の球団は関係ないのか。戦々恐々のプロ野球界である。(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)