背中には200キロ以上もの重さがのしかかる
専門家は事故をどう見るのか。組体操事故に詳しい名古屋大学大学院の内田良准教授(教育社会学)はJ-CASTニュースの取材に「(学校や教員は)リスクに向き合う力が無いと言わざるを得ない」「補助役の教員を周りに配置する、セーフティーマットを活用する、という『安全策』は何の意味もありません」と学校や教員、市教委を厳しく批判した。
ピラミッドはほぼ内側に崩れるため、周囲に教員を配置する意味はない。セーフティーマットも後方へ落下する生徒のけがを軽減するかもしれないが、根本的な解決法にはならない。「これでは『言い訳のための方策』とみなされても仕方ありません」――内田さんはそう見る。
事故を起こした10段ピラミッドの場合、一番負担の大きな生徒は背中におよそ3.9人分、200キロ以上もの重さがのしかかる。そのため崩れた時のエネルギーは凄まじく、生徒が脊髄損傷など重い障害を負った事例も過去にあるようだ。
さらに訴訟へ発展した場合も、圧倒的に「学校(教員)側に分が悪い」と指摘する。組体操事故をめぐる訴訟はほとんど学校(教員)の敗訴に終わっており、「組体操事故への関心の高まりを考えると、もはや『リスクを知りませんでした』では済まない状況になっています」とした。
では、これだけリスクの高い人間ピラミッドをなぜ学校側はやり続けるのか。内田さんは「体育祭で大きなピラミッドを披露すると、見にきた保護者は拍手喝采、賞賛しますよね。そうなると、教員もやめられなくなるんです。ピラミッドが作り出す『感動』が負の面を見えなくしているんです。保護者と教員がピラミッドの巨大化を推進してきたと言っても過言ではありません」と話し、この状況を「感動の呪縛」と呼んだ。
取材の最後に内田さんは、「巨大なリスクを抱えた人間ピラミッドはやるべきでない」と強く語った。