米国各地で従軍慰安婦をモチーフにした像や記念碑を建立する動きが相次いでいる問題で、日本はさらに劣勢に立たされることになりそうだ。
これまでは建立の動きは地方都市にとどまっていたが、2015年9月22日(米西部時間)にはカリフォルニア州サンフランシスコの市議会が記念碑設置を求める決議を全会一致で採択。これほど大規模な都市で建立の動きが本格化するのは初めてだ。韓国側は、慰安婦問題を「普遍的な人権問題」としてアピールしたい考えで、今回の決議案採択は「こうした認識が広がっている」結果だとしている。日本側も市議会関係者と「意見交換」を進めていたが、ロビー活動は失敗に終わってしまった。
「慰安婦=人権問題」というメッセージが広く定着するおそれ
決議案は15年7月、市議会に所属する11人の議員のうち8人が共同で提案。決議案では記念碑建立の目的を「人身売買や女性への暴力に反対し、過去の過ちを記憶するため」と説明しており、11人全員が賛成して可決された。記念碑建立のための費用は市民からの寄付などでまかなわれ、今後、市内の公園や広場で設置作業が始まる見通しだ。
姉妹都市の大阪市の橋下徹市長は、日本の事例だけを取り上げるのは「世界各国の問題解決につながらない」などと慎重な対応を求める書簡を送ったが、議員を翻意させるには至らなかった。
これまでにも、米国ではカリフォルニア州グレンデール、ニューヨーク州ロングアイランドなどで慰安婦像や記念碑が建立されてきた。サンフランシスコという米国有数の都市での建立が現実化したことで、「慰安婦=人権問題」という韓国側が意図するメッセージが広く米国で定着する可能性もある。
実際に韓国側はそのように受け止めている。聯合ニュースによると、韓国外交部の魯光鎰(ノ・グァンイル)報道官は9月24日の会見で、決議の採択を、
「慰安婦問題が戦時の女性人権、普遍的な人権問題ということについて米国内で幅広く共感を呼んでいることを示す」
と高く評価。こういった認識が「広がっている」とも述べた。
菅官房長官「相容れない内容を含むもので、きわめて残念」
対する日本側は防戦を強いられている。菅義偉官房長官は9月24日の会見で、
「日本政府の考え方や、これまでの取り組みと相容れない内容を含むもので、きわめて残念なことと受け止めている」
と不快感を示し、ロビー活動が「不発」に終わったことを明かした。
「政府としては、今回の問題があってから市議会や関係者の方、様々な方に意見交換を行ってきた。そして、その機会に対して、我が国の基本的な考え方、これまでの取り組みを適切に説明して(意見交換を)行ってきた。そういう中で、今回、我が国としては相容れない内容を含むものが建てられるということは残念な思い」
菅氏は、ロビー活動が難しい背景として韓国系住民の選挙への影響力の強さを挙げる一方で、「関係者の理解を得て動きが収まるという例」もあったと話す。ただ、会見では具体例の言及はなかった。
「米国において地方自治体の状況は様々で、中には韓国系住民が多い地域、選挙の事情...、そういう中で難しい状況も存在するが、これまでの我が国の働きかけ方、これは実際に関係者の理解を得て動きが収まるという例も過去に複数ある。これからも粘り強く、関係者の方に実態というものを理解していただくように務めたい」