日本による漁獲量の減少が続くサンマについて、北太平洋の公海での漁業ルールに関する初の関係各国間の話し合いが、2015年9月に日本で開かれた。当面は実態調査をする程度だが、日本の「庶民の味」だったサンマでも、資源を枯渇させないための漁獲制限など国際的なルール作りが必要になってきた。
北太平洋の地域漁業管理に関しては、マグロ類を規制する「中西部太平洋まぐろ類委員会」(WCPFC)、サケやマスの「北太平洋遡河性魚類委員会」(NPAFC)がある。
しかし、こうした既存の機関で管理されていない魚類の資源管理を行うため、2012年に日米韓露加中台の7か国・地域は「北太平洋における公海の漁業資源の保存および管理に関する条約」(北太平洋漁業資源保存条約)を締結した。2015年7月に日加露中の4か国の受諾書寄託(韓国も批准書を寄託)で発効し、サンマ、クサカリ、ツボダイ、アカイカなどが対象魚種となった。この中では、日本人にとっては「庶民の味」として食卓に上るサンマが最大の関心事だ。
台湾の水揚げが日本を抜いてトップになった理由
同条約に基づいて「北太平洋漁業委員会(NPFC)」が設置され、その初会合が2015年9月3日に東京で開かれた。日加露中韓台に加え、米国もオブザーバーで参加し、サンマの資源保護で合意した。
具体的には、同海域でのサンマの実態調査を2017年までに行って資源量を評価し、資源量を維持できる新たな保存管理措置の議論を始めることで合意した。また、新たな措置が取られるまで、許可漁船数を急増させないようにするとともに、公海で操業する漁船に発信装置を取り付けて各国政府が状況を監視することや、許可漁船の名前や大きさなどを東京に新設した事務局に登録する制度を設けることでも一致した。
サンマは太平洋全域に広く分布しているが、中国や台湾などの漁獲量が増えたために資源は減少傾向にある。同海域のサンマの推計資源量は2003年の502万4000トンから2014年には252万9000トンに半減したとされる。
台湾などは国際的ルールがない北太平洋の公海を主な漁場にしているうえ、台湾は日本の漁船の約5倍の1000トン規模の大型漁船を使った漁が中心で、缶詰など加工向けのサンマを大量に捕獲。国・地域別の漁獲量をみると、台湾は2013年に18万2619トンにまで伸ばして、日本を抜いてトップに立った。公海での漁に限ると、台湾は2008~10年平均の年間漁獲量が13万6475トンと2位韓国(1万2680トン)を大きく引き離している。
背景にあるのが中国での需要拡大。経済発展に伴う消費増の中でも、サンマは手軽に食べられる食材として人気があるといい、台湾から冷凍で年間4万トン程度を輸出されているという。
日本近海に来る前に稚魚までごっそり
日本のサンマ漁は、鮮度を重視して冷凍物を避けるため、近海の排他的経済水域(EEZ)内での漁獲が中心で、1997年から独自に総漁獲量を制限して資源管理を行っている。それでも、漁獲量は2008年の34万3225トンから2013年には14万7819トンに減っている。台湾などによる公海上の漁との因果関係について、水産庁は「不明」としているが、台湾船などはサンマの群れが日本近海に来る前に公海で採ってしまう形になっており、漁業関係者からは「大きな漁船で稚魚も多く取られてしまう」との不満が絶えない。
このため、日本はNPFCの場で、公海での乱獲を防ぐため、漁獲枠や禁漁水域の設定などの実効性のあるルール作りを主張していく方針だ。中国や台湾などが簡単に応じるかは不透明だが、クロマグロでは厳しい規制を導入した大西洋域で資源量が急回復して、今年から漁獲枠を拡大したという成果もあり、資源保護による持続可能な漁業という基本認識は国際的に広く共有されてきている。
サンマ保護へいかに関係国を引っ張っていくか。「庶民の味」を守る日本の外交力が試される。