2015年のプロ野球シーズンで、「打率3割」、「30本塁打」、「30盗塁」の同時達成をヤクルトの山田哲人、ソフトバンクの柳田悠岐が確実とした。この2人、今や野球少年のヒーローとなっている。
この3部門の同時達成を「トリプルスリー」といい、大リーグでは、
「翼を持った長距離バッター」
と呼んで野球の理想選手と位置付けている。この記録がいかに難しいか。日本の球界では過去80年間で8人しかいない。
三つの中でもっとも難しいのは盗塁だ。
山田が今シーズン、30個目の盗塁を達成したのは9月6日。この時点で打率3割3分3厘、33本塁打。
それから間もない15日、柳田も30盗塁を決めた。打率3割6分9厘、32本塁打がその時点での成績だった。
本塁打と盗塁は積み重ねの記録なので減ることはない。打率は上下するが、両選手とも3割を切ることはまずない。30盗塁で快記録は決まり-というのはそういう理由からである。
セ、パ両リーグから同じシーズンに出るのは珍しく、初めてこの記録が出た1950年(セ岩本義行、パ別当薫)以来となる。
ついでに達成選手を挙げると、中西太、簑田浩二、秋山幸二、野村謙二郎、金本知憲、松井稼頭央。そうそうたるメンバーである。
オコエも目指す野球少年の「あこがれ」
山田、柳田は打点でも上位にいる。このことは将来、盗塁王も兼ね備えた「三冠王」が生まれる可能性があるということだ。
三冠王を記録した打者の多くは典型的な長距離打者で、いわゆる重量級。山田と柳田はスピードを持った中距離打者である。その意味ではこれからの野球界をリードする新しいタイプの打者といえよう。
二人は野球少年のあこがれの的だ。完全にヒーローとなっている。
「山田、柳田のような選手になれ」
指導者たちもそう言いながら教えている。
つい最近、今夏の甲子園でブレークした関東一高のオコエ瑠偉がプロ野球志望届けを出したが、そのときにこう夢を語った。
「山田選手、柳田選手のような選手になりたい」
これは高校球児の代表発言といってもいい。
山田、柳田は今シーズンのMVPに選出(記者投票)されるだろう。柳田はリーグ優勝決めた17日の西武戦でウイニングボールをつかんだ。彼の今季を象徴しているフィナーレだった。
(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)