「地方創生」の一環として政府が打ち出した中央省庁や独立行政法人などの地方移転で、42道府県が69機関について誘致したいと手を挙げた。政府は要望をもとに、2016年3月までに移転対象機関と移転先を決定する方針だが、移転される省庁側の抵抗は必至で、実現へのハードルは高い。
今回の方針は東京(首都圏)一極集中の是正が目的で、2015年3月、主に首都圏にある政府機関について、東京、神奈川、千葉、埼玉の1都3県を除く43道府県に対し、誘致したい機関を公募。8月末に締め切り、9月1日に結果をまとめ、公表した。その結果、鹿児島県を除く42道府県から69の政府関係機関(中央省庁など27政府機関と42独立行政法人)を誘致する「提案」(要望)が寄せられた。
京都は文化庁、大阪は中小企業庁、広島は防衛大学校
提案は、まず地域の特性を反映したものが目に付く。歴史と伝統が"売り"の京都府は文化庁や国立美術館の事務局機能など、中小企業の集積地である東大阪市を抱える大阪府は中小企業庁や特許庁など、雨が多い三重県は気象庁など、戦前から軍との関係が深い広島県は防衛大学校などを、それぞれ挙げた。
東京電力福島第1原発事故が起き、放射線による健康被害が懸念される福島県は放射線医学総合研究所などを要望。人口推計で「消滅可能性都市」の筆頭に挙げられている南牧村のある群馬県は、これを逆手に取って、国立社会保障・人口問題研究所などの移転を希望した。
可能性の少ないとみられる中央省庁の本体ではなく、各省庁や独立行政法人の研究所などに狙いを絞り、しかも組織丸ごと移転を欲張らずに一部機能の誘致を求める自治体が多く、「競合」も目立つ。代表例が、産業技術総合研究所(茨城県つくば市など)の12県で、理化学研究所(埼玉県和光市など)にも11府県、森林技術総合研修所(東京都八王子市など)に11県、水産総合研究センター(横浜市など)は10県が、それぞれ殺到した。
一方、観光に力を入れる自治体が多く、誘致競争が激化するとの見方もあった観光庁は、北海道と兵庫県の2道県しか名乗りを上げなかったのは、やや意外な感もあった。これらの要望をもとに、政府は9月中旬以降、道府県からのヒアリングを開始。増田寛也元総務相を座長とする有識者会議で検討を進め、年内には提案への評価をまとめ、2015年度内に大枠の方向性を示したい考えだ。
気象庁は「災害時の連携に支障」と移転に反対
ただ、実際に移転までの道のりは険しい。省庁の抵抗が根強いのは言うまでもない。例えば気象庁は、「災害時に政府内の連携に支障をきたす」との懸念を掲げて移転に反対する構えだ。
こうした省庁の抵抗を突破するため、政府は、移転の効果がデメリットを上回るかどうかをポイントに検討するとしている。誘致する自治体にとっては、首都圏にある場合と同じように効率的な運営ができ、移転による地域への波及効果を 「立証」しなければならないということになる。ほかにも、移転先の施設や職員の住環境の確保の問題や、交通網などインフラの整備も含め、誘致する側のハードルは高い。
地方創生は安倍内閣の目玉政策の一つだが、「文字通り政治力を発揮しないと、簡単には進まない」(内閣府関係者)だけに、政府の本気度が問われることになる。