鬼怒川の堤防決壊により、茨城県常総市が大規模な水害に見舞われた2015年9月10日、屋根の上で助けを待っていた住民2人が2匹の犬とともに救助される様子がテレビ局各社のヘリコプターから生中継され、大きな注目を集めた。
インターネット上では、犬の命まで救った自衛隊員を称賛する声が相次いだが、これを「ルール違反」と指摘するツイートが投稿され、議論を呼ぶこととなった。
任務の「生存する国民の救助」以外はアウト?
住民のもとに自衛隊員が降り立ったのは10日16時ごろ。救助は女性、男性の順番で、2人が抱きかかえていた犬も一緒にヘリコプターに引き上げられた。途中で落ちないようにするためか、犬を袋に入れられる工夫もなされた。
救助された女性は搬送先の公園に到着後、NNNの取材に対し「本当は、犬は置いてくればよかったのかもしれないですけど、自衛隊の方に『お願いします』と言って連れてきました。子供の犬なので置いてこられなかったので...」と話し、感謝の言葉を述べた。
ネット上には「私も愛犬を置いて自分だけなんて無理です」「涙止まらない。ほんとに良かった」「ペットの犬や猫達も大事な『家族』ということですね。深い絆を感じます」といった声が相次ぐと同時に、自衛隊員にも称賛の声が集まった。
そうした中、あるツイッターユーザーが「陸上自衛隊が要救助者に抱えられた犬を救助しました。ルール違反ですが意外と隊員は融通が利きます」と投稿した。その下には、犬が「家族」であることを被災者に確認した上で救助にあたったとする会話のやりとりを載せていた。
ツイートは反響を呼び、改めて自衛隊員の判断を評価する声があがったが、一方では「本当にそんなルールあるの?」という疑問の声も出た。
このユーザーに現役自衛官の妻を名乗る人物が「ルール違反ではないんです。ただ救助の優先順位が変わってしまうのです」と反論すると、同ユーザーは自身も「身内が自衛隊法のエキスパート」だとした上で、「自衛隊の任務はあくまでも『生存する国民の救助』」だと返答した。
もっとも、このユーザーは「ルール違反」を問題視しているわけではなく、ルールに縛られる中でもなんとかして「小さな家族」を助けようとする自衛隊員の姿を好意的に捉えていたようだ。だが、反響があまりに大きいことを理由に、まもなくしてツイートを削除した。
警察庁、消防庁では「特にルールなし」
災害時において、自衛隊が「人命優先」で救助にあたることは確かだろう。ただ、今回は犬を被災者と一緒に引き上げており、ペットだけを救助しに行ったわけではない。つまり「生存する国民の救助」が任務だとしても、「災害時にペットを救助することは不可とする」との決まりがない限り、ここで「ルール違反」とは言えなさそうだ。
実際、自衛隊にそうした「ルール」があるのだろうか。防衛省の広報室に問い合わせたが、担当者が災害対応中とあり本日中に確認を取ることはできなかった。回答があり次第、追記する。
では、自衛隊と連携して救助活動に取り組んでいる警察や消防ではどうだろうか。警察庁広報室に取材すると、「ペットに関する内規はありません」とのこと。消防庁総務課でも「ペットに関する取り決めは特にありません」と回答した。
両庁でも災害時は「人命優先」で対応していることだろう。その上でペットを救助するか否かについては「現場の(警察官の)判断になることもあるかと思います」(警察庁)という。消防庁の広報担当者も「ペットをその場に残していっても大丈夫な状況もある。さまざまなケースがあり、一概には言えませんね」と話した。
なお救助時の手順とは別の話だが、環境省では、災害時にペットと同行避難することを推進するガイドラインを出している。東日本大震災の経験を踏まえ、2013年11月に作成したものだ。同行避難は「動物愛護の観点のみならず、放浪動物による人への危害防止や生活環境保全の観点からも、必要な措置である」とし、自治体や飼い主などが日頃から準備すべきことや、発生時の対応などを記している。
(14日14時45分追記)防衛省の広報室はJ-CASTニュースの取材に対し、「ペットを救出するための根拠法令はありません」とコメント。その上で「人命救助を最優先としていますが、可能な範囲で要救助者の要望に応えられるよう対応しています」と説明した。