1997年に神戸連続児童殺傷事件(酒鬼薔薇聖斗事件)を起こした加害男性「元少年A」を名乗る人物によるホームページ開設について、複数の週刊誌が報じ、波紋を広げている。
確認できるサイトを見ると、トップページの詳細なプロフィールや、2015年6月に出版された手記「絶歌」の宣伝文もさることながら、それ以上に目を引くのが「セルフポートレート」と称した「全裸」写真、そして大量のナメクジを用いた「作品」だ。
使用したナメクジは全部で約100匹
「元少年A公式ホームページ」をうたったページには、「存在の耐えられない透明さ」とのタイトルが付けられている。
9月10日発売(首都圏など)の「週刊文春」「週刊新潮」「女性セブン」が、元少年Aと称する人物から同ページURLの書かれた手紙が送られてきたと報じ、その存在が広く知られるようになった。開設した人物が加害男性と同一人物かは不明だが、週刊文春では、手紙が元少年Aによるものであることを「確認できた」と伝え、週刊新潮は、「当事者しか知りえない、いわば"秘密の暴露"とでも言うべき事柄が、詳細に記されていた」と報じている。
ページ内に設けられたギャラリーコーナーには、趣味で制作したというイラストやグラフィック作品が掲載されている。驚くことに、そこには「セルフポートレート」と称した本人とみられる写真もある。
顔は黒い布で覆っているが、上半身は裸。全裸を披露したものも3枚ある。局部にエイリアンのような生物が取りついたもの、胎児のように膝を抱えて丸くなっているもの、巨大なナメクジにまたがったものなど、いずれも独特な作品だ。6つに割れた腹筋や太い腕など、筋肉質な体型が強調されている。
「閲覧注意」と断るべき作品もある。ページの一番下に掲載された大量のナメクジを使ったハート型のコラージュ作品だ。本人曰く「ナメクジを使って寄せ絵をやったらどうなるか見てみたい」との思いから出発し、完成までに最も時間と労力を要したという「力作」。使用したナメクジは全部で100匹はくだらないという。
この作品には「メイキング」まで用意されており、ナメクジをランウェイを歩くモデルになぞらえながら、写真と文章で細かな制作経過を解説している。
「メンバー全員が集合したところで、高濃度の塩水を入れたアトマイザーでシュッとひと吹きすると......普段の彼らからは想像もつかないスピードで這い出てきます」「もはや地獄絵図......」「塩に溶かされて粘液の量がハンパない」
などと紹介している部分では、大量のナメクジが重なり合いながらうごめくグロテスクな写真が何枚も連なっている。
「透明な存在でもモンスターでもなく、自分自身を表現したい」
心理学者の碓井真史氏(新潟青陵大学大学院教授)に見解を聞くと、「ナメクジは、彼にとっては命の象徴であり、またみんなに嫌われるナメクジは彼自身の象徴なのかもしれません」と分析した。
手記「絶歌」ではナメクジの解剖シーンが生々しく描かれていた。ギャラリーで一番に紹介されているナメクジをモチーフにしたイラストの下には、
「『心象風景』ならぬ『心象生物』という言葉がもしあったなら、不完全で、貧弱で、醜悪で、万人から忌み嫌われるナメクジは、間違いなく僕の『心象生物』だった」
という「絶歌」にもあった文章が引用されている。元少年Aにとって、ナメクジは特別な存在のようだ。
また、ナルシシズムも感じられるセルフポートレートについて、碓井氏は「透明な存在でもなく、モンスターでもなく、自分自身を表現したい思いの表れとも考えられそうです。かなり鍛えた身体で写っているのは、強さの表れ、強くなりたい思いの表れかもしれません」とみる。
ホームページでは、物議を醸した手記「絶歌」について「事件から18年。『冷酷非情なモンスター』の仮面の下に隠された"少年Aの素顔"が、この本の中で浮き彫りになっています」と自らPRしているほか、「身長165.6cm 体重54.3kg」といった細かなプロフィル、好きな映画や本の感想なども掲載されている。被害者の遺族に対して謝罪するような言葉は見当たらない。
「『絶歌』やホームページは、単なる自己顕示欲ではなく、自己の存在確認をするための強烈な表現欲求のようにも感じられます。彼の心の健康にとって、表現することは重要なことなのでしょう」(碓井氏)
ホームページ開設を受け、元少年Aをヒーロー視する風潮が一部で助長されてしまう可能性を危惧する専門家の意見も出ている。一方、碓井氏は元少年Aの精神状態についても心配な面があるという。
「周囲からの悪評はあまり気にしていないように感じられますが、これだけ目立つ行動を取れば、何が起こるかわかりません。結果的に、彼の精神が不安定になることも考えられます。サポートチームなどから、必要なサポートをもらって欲しいと思います」(碓井氏)