財務省の手のひらの上で踊るマスコミ
この財務省案の出し方からみても、財務省の仕掛けの意図が感じられる。今月初めのトルコでのG20で、麻生財務相から同行記者へ出した。このため、G20の内容よりも、消費税還付のほうが日本の紙面をとった。実は、G20では、中国経済の先行き不安定ばかりが議論された。中国経済が怪しいなら、2017年4月からの10%への消費再増税は、世界経済にとってはやってはいけない愚策である。日本経済をよくして、世界経済の牽引になるべきところが、消費増税では逆政策である。
日本で消費税還付ばかりが議論になって、その前提である消費増税について、この時期の世界経済にとっていかにマイナスであるかという、本質的な議論ができなくなっている。
法律で消費再増税は決まっているといっても、昨(14)年12月の解散総選挙をみれば、17年4月からの消費再増税も政治的には変更可能であることが明らかだ。国民に信を問い、法律を変えれば良いのだ。安倍首相は、「アベノミクス解散」と命名した14年の解散総選挙で、当初予定されていた今(15)年10月からの10%への消費再増税の延期を決めたことも争点に挙げた。
それにしても、今の経済情勢を考えるだに、昨年の解散総選挙がなければ、今年10月から消費再増税となっていたかと思うとぞっとする。しかも、昨年の解散総選挙では、マスコミは消費増税に賛成していたので延期を批判していた。今回、マスコミは消費増税そのものには反対できずに、還付の問題点だけを取り上げることを、財務省は読んでいて、消費税還付案を出してきたのだろう。しかも、新聞への軽減税率の適用の話は置き去りで、その怒りは消費税還付に向かうこともわかっているはずだ。
消費再増税は政治的にはまったく白紙であるにも関わらず、こうして、マスコミは財務省の手のひらの上で踊り、17年4月からの10%への消費再増税が既成事実化していっている。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「さらば財務省!」、「恐慌は日本の大チャンス」(いずれも講談社)、「図解ピケティ入門」(あさ出版)など。