解説者も驚く一幕だった。サッカーW杯2次予選アフガニスタン戦、ゴール前で獲得したフリーキックで、DF吉田麻也選手がエース本田圭佑選手を差し置いて、直接ゴールを狙ったのだ。
これまで本田選手が「おいしい場面」でキッカーを譲ることはほとんどなく、かつては大先輩の中村俊輔選手相手に一歩も引かなかった。何か心境の変化があったのか、それとも代表では絶対的なキッカーではなくなったのか。
「え、吉田フリーキック蹴れんの?」
2015年9月8日のアフガニスタン戦、日本は1‐0で迎えた前半30分にゴール前左の位置でフリーキックを獲得。追加点には絶好のチャンスで、誰もが本田選手が直接狙うだろうと予想した場面だ。
しかしボールの前には本田、吉田両選手が並んだ。TBS系の試合中継で解説をしていた元日本代表の福田正博さんは「吉田麻也、いいキック持ってるんですかね?」「あんまりそういう印象ないんですけど・・・」と驚いた様子だった。
結局、吉田選手が放ったシュートは壁にあたって外れたものの、サポーターの間でも驚きが広がった。ツイッターには
「え、吉田フリーキック蹴れんの?」
「吉田がフリーキック!?」
「今日の試合のピークはマヤが直接フリーキック蹴ったとこ」
といった書き込みが相次いだ。代表戦はもちろん、所属クラブでも直接シュートを狙うフリーキックはほとんどないだけに、中には「初めて見た」という声すらあった。
その後は本田選手が主にキッカーを務めたが、あの場面で譲ったのは印象的だった。試合後に報道陣から質問が飛ぶと、「気付いたら(吉田)麻也がいた」と、自身も予想外だったと話した。
なぜ吉田選手にキッカーを譲ったのか。ネットでは、過去の試合をめぐって持ち上がった、あるスキャンダルが影響したのではないかと取りざたされている。
試合直前、タレントの暴露ブログが物議に
本田選手はアフガニスタン戦3日前の9月5日、報道陣に「あの時は蹴りたかったから」と話し、09年のオランダ戦について振り返った。この試合では当時、若手の立場ながら絶対的な存在だった中村選手とキッカーをめぐって争い、大きな波紋を広げたことがある。自身の経験になぞらえ、若手の奮起を促したのだ。
この回想発言がスポーツ紙に取り上げられると、中村選手と交友のあるタレントの清水圭さんが6日のブログで「な~んか『エエ話』みたいになってるけど、実際はそんなキレイ事ではおまへん」と噛みついた。
「キッカーをあきらめきれない本田選手が中村選手に吐いた『ありえないセリフ』をワタシは知ってまんねん」というのだ。
結局清水さんはブログを削除し、「ありえないセリフ」の具体的な内容について明かすことはなかった。しかしサッカーファンの間ではいったい何があったのかと大きな反響を広げていた。
こうした経緯から、今回はキッカーを譲ったのではないか、とネットではうわさされている。もちろん真偽は分からないが、おいしい場面でキッカーを譲ったのは事実だ。では、今後の代表戦でキッカーは誰が務めるのか。
ハリルホジッチ監督はかねてから「現代サッカーでは得点の33%がフリーキックから」と語ってきた。練習では本田選手以外にも清武弘嗣、岡崎慎司、原口元気選手らにフリーキックを蹴らせている。最近は香川真司選手にコーナーキックを任せることも多い。
ほかにも柴崎岳選手や山口蛍選手ら、正確なキックに定評がある選手もいて多士済々だ。ハリルホジッチ監督はアフガニスタン戦で、右サイドは香川選手や山口選手、左サイドは本田選手、と分担するよう決まりごとを作っていたという。かつての中村選手や遠藤保仁選手のように絶対的なキッカーを置かず、流動的になる可能性はある。