日本生命保険が三井生命保険を買収すると、大手マスコミが一斉に報道した。2015年8月26日のことだ。日生が三井生の主要株主から株式の約8割を買い取り、子会社にするという。生保業界で長年ナンバーワンだった日生は2015年3月期決算で、売上高に当たる保険料等収入で第一生命保険に戦後初めて首位の座を奪われた。
業界8位の三井生を子会社化することで、日生が首位奪還を目指すとマスコミは報じるが、現実はそう単純ではない。長期にわたり業績が低迷する三井生は抱える課題が多く、本来なら親密なはずの住友生命保険との経営統合が進まなかった経緯がある。今後は日生が三井生を取り込み、新たなビジネスを生み出せるか、真価が問われることになる。
「投資適格」の下位
日生が三井生を子会社化すれば、保険料等収入で第一生を抜くのは間違いない。日生は海外生保の買収と銀行窓販で出遅れたのが第一生の後塵を拝する要因となった。三井生は銀行窓販で先行しており、三井グループ系企業の団体保険にも強みがある。日生が食指を動かす理由はわからなくもない。
しかし、生保業界で三井生は朝日生命保険と並び、バブル経済崩壊後、長期にわたって業績が低迷している代表格。生保各社はバブル期に年率5%を超える高い契約利回り(予定利率)の保険商品を販売したが、バブル崩壊後の金利低下や株価下落で、保険料の運用利回りが予定利率を下回る「逆ざや」が拡大。1997年の日産生命保険から2001年の東京生命保険まで7社が破綻に追い込まれた。
2008年3月期に日生と第一生、2012年3月期に明治安田生命保険と、体力のある大手生保は逆ざやを解消。その後も住友生などが解消し、国内の主要生保13社のうち、2015年3月期決算で逆ざやが続くのは、三井生と朝日生の2社だけになった。保険金の支払い余力を示す「ソルベンシー・マージン比率」も、金融庁がまとめた主要生保14社の平均962.4%に対して、三井生は812.4%と業界平均に届かなかった。
このためS&Pやムーディーズ・ジャパンなど格付け会社の評価も、日生、第一生、明治安田生、住友生などが「投資適格」の上位なのに対して、三井生は「投資適格」の下位に位置する。
2015年3月期決算でも大手生保が契約者配当を増やす中、三井生は契約者配当と株主配当の支払いを見送った。「経営環境や将来の収益見通しを踏まえ、引き続き内部留保を優先すべきと判断した」という。
住友生命は引き受けず
三井住友グループの中では三井住友銀行の発足とともに、損保は2001年に三井住友海上火災保険が誕生するなど、金融業界で旧三井、旧住友グループの融和が進んだ。生保業界でも当初は住友生と三井生が経営統合すると目され、朝日新聞が両社の経営統合を報じるなどしたが、結果的に統合は進まなかった。財務体質の改善が進まない三井生との統合に住友生が難色を示したからだ。
三井生が2004年、業界の先頭グループを追って株式会社となったのも、将来的な再編を意識してのことだった。大手生保の大半は相互会社だが、M&Aに積極的な大同生命保険、太陽生命保険、第一生は株式会社に転じ、いずれも株式を上場した。しかし、三井生は株式会社化はしたものの株式上場を果たせないまま、三井住友銀行や三井物産など三井グループが主要株主として支える状態が続いている。
三井生は今春発表した中期経営計画(2015年度から3か年)で、旧来の営業職員(生保レディ)による対面販売をメインチャンネルに据えている。このビジネスモデルは日生と同じだ。日生は三井生を銀行窓販の保険商品を開発・販売する会社に特化するなど、営業職員以外の販路を拡大しなければ、子会社化の意味が薄まるだろう。S&Pは「買収が事実となった場合、新グループが打ち出す事業戦略によって国内営業基盤が強化されるかどうかに注目する」としている。
死亡保障が中心だった日生は外資系やソニー生命保険など新興勢力に比べ、ライフスタイルが変わった日本の保険ユーザーの多様なニーズに対応しきれていない点は否めない。保険料等収入の首位奪還という数字合わせよりも、日生がどんな保険商品を開発し、新たなビジネスモデルを構築するのか。生保業界は「日生の次の一手」に注目している。