大阪市の橋下徹市長(大阪維新の会代表)の周辺が、また騒がしくなってきた。橋下氏と言えば、2015年5月に行われた「大阪都構想」の是非をめぐる住民投票で敗れ、政界引退を明言していたはず。
だが、橋下氏は突然維新の党からの離党を表明。その時点では党を割ることは否定していた。ところが、直後に地域政党「大阪維新の会」の国政政党化を表明。党を割る形での新党結成宣言で、15年11月にも行われる大阪市長・大阪府知事のダブル選をテコに党勢拡大を図るとの見方も出ている。本当に「橋下劇場」は市長の任期切れとともに幕を閉じるのか。
官邸に近い「大阪系」と民主党との連携目指す「非大阪系」の対立が先鋭化
橋下氏は住民投票の大勢が判明した5月17日深夜の会見で、
「市長の任期まではやるが、その後は政治家はやらない」
と述べ、大阪市長としての任期が切れる12月18日で政界を引退することを明言していた。
だが、それから3か月以上経った8月27日に政局は動いた。山形市長選(9月13日投開票)をめぐり、柿沢未途幹事長が民主党系候補の応援演説に立ったことが問題化し、党内では辞任論が噴出した。辞任要求を松野頼久代表が突っぱねたため、橋下氏と松井一郎・大阪維新の会幹事長(大阪府知事)が反発して維新の党を離党した。この時点では橋下氏は「党は割らない」としていたが、翌8月28日の大阪維新の会の会合では一転、国政政党を発足させる意向を表明した。
元々、維新の党内部では、安倍政権に近い橋下氏や松井氏ら「大阪系」と、民主党と野党再編を目指す松野氏や柿沢氏ら「非大阪系」との路線対立が深刻化していた。柿沢氏の辞任問題で一気に対立が先鋭化し、維新の党の「大阪系」12人を含め20人以上の国会議員が橋下氏の新党に合流するとみられる。
後世に託すはずだった都構想は「バージョンアップさせたい」
今回の新党結成は、11月にも行われるダブル選で党勢を拡大し、橋下氏や松井氏の影響力を温存することが狙いだと指摘も相次いでいる。16年夏には参院選も控えている。だが、橋下氏は8月31日のツイッターの書き込みで、
「誰もが想像できないことをやるのがトップの役割だ。解説者が解説できることをやるなら俺は不要」
と、こういった見方を否定した。
ただ、橋下氏の発言のブレには引き続き注意が必要そうだ。例えば大阪都構想については、15年5月の住民投票後の会見では、後の政治家が、
「都構想の設計図を頼りにしてくれたらうれしい」
と述べている。都構想は自らの手を離れた形で後世に託すともとれる発言だが、橋下氏は8月29日に大阪府枚方市で行った街頭演説で、都構想を「バージョンアップさせたい」とも発言。自らの手での「再チャレンジ」をにじませた。
8月31日時点では、橋下氏はツイッターに、
「僕は12月18日に辞める。その間、できることを一生懸命やる。辞めるからと言って何もやらないという選択肢は僕にはない。政治家としての命は3か月とちょっと。悔いのないよう、思う存分やる」
と書き、政界引退の意向は維持している。ただ、都構想の位置づけの変化をみると、政界引退の意向が変化する可能性も残されている。