国連の潘基文(バン・ギムン)事務総長が中国・北京で2015年9月3日に開かれる「抗日戦争勝利70周年」の式典に参加することを発表し、日本側は「国連は中立であるべき」だと反発している。
潘氏は5月にもモスクワなど欧州各国で行われた第2次大戦終結記念行事に出席しており、北京の行事も同様の位置づけだというのが国連側の言い分だ。ただ、モスクワも北京も先進国首脳会議(G7)からの国家元首・首脳級の参加は皆無。世界的は「マイナー」だとも言える行事にあえて参加することへの疑問の声も出ている。今回の式典に西側の主要国で参加するのは韓国だけ。韓国の立場を支援した形にもなり、日本国内から国連の中立性をめぐる批判が高まるのは必至だ。
菅官房長官「いたずらに特定の過去に焦点は当てるべきではない」
国連は8月27日、潘氏が9月2日から6日にかけて習近平国家主席の招待に応じる形で訪中すると発表した。発表の表現を借りると、潘氏は「第2次世界大戦の終結を記念する行事」に参加するほか、国連の設立70周年、気候変動、持続可能な開発に関するサミットといった相互の関心事について議論するという。
国連の発表内容は中立的だが、行事が対日批判色を帯びるのは明らかだ。潘氏が行事に参加することは、潘氏が中国側の主張を追認しているに等しいとも言え、日本政府は批判を強めている。
菅義偉官房長官は8月31日の会見で、
「国連には190か国以上が加盟しており、国連はあくまでも中立であるべきだと思う。(戦後)70年の今年、いたずらに特定の過去に焦点は当てるべきではないと考えている。あくまで自由、人権、法の支配、こうしたことを含めた国際社会の融和と発展、未来志向を強調するということこそ国連に求められているのではないか」
と述べた。大島理森衆院議長も同日、ニューヨークの国連本部で潘氏に会い、菅氏と同様の懸念を直接伝えた。潘氏は、こういった指摘について「留意する」と応じたという。
この会談後に行われたドゥジャリク事務総長報道官の会見では、潘氏の訪中を、
「すでにポーランド、ウクライナ、モスクワで行ってきたのと同様」
だと主張した。潘氏は5月7日にポーランドのグダニスク、5月8日にウクライナのキエフ、5月9日にロシアのモスクワで行われた記念行事に立て続けに出席している。北京もこれと同じ位置づけだという訳だ。訪中の意義については、
「事務総長はこの機会を、過去を振り返り教訓に目を向け、これらの教訓に基づいた明るい未来に前進する機会にすることが大事だと考えている」
とも説明した。
モスクワの行事では人民解放軍が軍事パレード参加
一連の欧州の行事で最も注目されたのが、モスクワでの対ドイツ戦勝70周年記念行事だ。50周年、60周年の際は主要国の首脳が顔をそろえていたが、70周年記念行事ではウクライナ問題が影響し、G7からの首脳の参加はなかった。逆に存在感を増したのが中国だ。習近平国家主席が参加し、人民解放軍が旧ソ連時代を通して初めて赤の広場での軍事パレードに参加した。潘氏は、この軍事パレードを観覧した。
北京の行事には国家元首・首脳級は30人が出席予定だが、やはりG7からは皆無。ウクライナ問題にからんで同会議の参加資格を停止されているロシアのプーチン大統領の参加が目立つ程度だ。EUからの首脳級はチェコ大統領とポーランド下院議長のみ。韓国からは朴槿恵(パク・クネ)大統領が出席する。
潘氏が北京の軍事パレードを観覧するかどうかについては、ドゥジャリク報道官は、
「中国政府が行う記念行事に出席する」
「記念行事の形式は国によって違う」
と含みを持たせている。
潘氏は韓国の外相にあたる外交通商部長官を経て、07年に国連事務総長に就任。アジアから事務総長が選ばれるのはウ・タント氏(ビルマ)に続いて2人目だ。