安全保障関連法案に抗議する国会前デモで配られた1枚のビラが、今話題となっている。配ったのは「反戦タイガース・兵庫尼崎支部」を名乗る阪神タイガースファンの男性で、派手な虎柄の法被を着てデモに参加していた。
ビラの中では、阪神タイガース球団歌「六甲おろし」の替え歌である「安倍おろし」も披露された。「安倍おろしに さっそうと 国会囲む デモ隊の」――デモの最中、男性はマイクを手にこう歌ったという。
「HANSHIN」を「HANSEN」に手で書き換え
2015年8月30日、国会前はプラカードを掲げる人々で埋めつくされた。主催の市民団体発表では約10万人、警察発表では約3万人と、参加者数に隔たりはあるが、過去最大規模の安保法案反対デモだった。
そんな中、デモで配られたという1枚のビラがネットを賑わせた。
「戦争法案に反対する全てのタイガース党の皆様へ」という題字の下に、
「安倍政権によって、戦後70年間曲りなりにも守ってきた非戦平和の国が、まさに破壊されようとしている」
といった文章が綴られている。
「反戦タイガース応援歌」という名目で「安倍おろし」が紹介されているのは一番下の部分。「HANSHIN Tigers」の文字列を「HANSEN Tigers」に書き換えただけの球団ロゴマークも一緒に張り付けてある。
ビラを作成、配布したのは兵庫県尼崎市に住む教員の北田万寿夫さん(60)。子どもの頃から根っからの阪神ファンで、安倍首相とは同い年だ。北田さんは30日、「戦うなら今でしょ」という思いで国会前に駆け付けた。
10年前から「反戦タイガース・兵庫尼崎支部」を名乗り、反原発デモをはじめ様々なデモに参加。今回もひときわ目を引く虎柄の法被を着て国会前を練り歩いた。30枚ほど印刷したビラは、阪神ファンだと申し出たデモ参加者にすべて渡した。ロゴにある「HANSEN Tigers」への書き換えは1枚1枚手作業で行ったと明かす。
「安倍おろし」の歌詞は、安保法案が衆院本会議で可決された7月16日頃に考え付いた。これまで細かい部分を何度も修正しながら、今回初めて紙にコピーしたという。
「『戦争法案』をつぶすには、安倍をおろすしかないやろうと思っていました」
と歌詞を考え付いた当時を振り返る。30日のデモでは、参加者にマイクを渡されて「安倍おろし」を歌う場面もあったという。
ちなみに「反戦タイガース」は自分を含め現在2人で活動しているそうだ。
阪神ファンから「勝手にタイガースを利用するな」の声
北田さんの配ったビラは、写真の形でネットに拡散し、
「めっちゃおもろい」
「センスありすぎる」
といった賞賛を生んだ一方、
「(安保法案)賛成派は阪神ファンちゃうって言われてるみたいで嫌」
「デモしてんやったら働いて日本の経済に貢献しろ」
との批判も呼んだ。また、阪神ファンを名乗る人も「勝手にタイガースを利用するな」と怒りの声を上げている。
その他、スポーツと政治を混ぜるな、著作権的にどうなのか、という批判も根強い。北田さんにこうした声をぶつけてみると、「批判は覚悟の上でやっている」と話しながら、
「オリンピックの件にしろ、為政者もスポーツを利用しているやないですか。権力のある者には何も言わず、弱い者をバッシングする、というのはアカンのちゃいますか」
「(ロゴや替え歌は)『パロディ』の範囲やと思っています」
と答えた。
ロゴの使用を球団側はどう考えているのか。阪神タイガース(兵庫県西宮市)へ取材すると担当者は、一切使用許可を出していない、と明かし、「例えお話を頂いていたとしても許可は出せなかったと思いますが」と付け加えた。
また、替え歌について「六甲おろし」を管理する日本コロムビア(東京都港区)に問い合わせたところ、同曲はすでにパブリックドメイン(編注:著作権が消滅した状態)であるとことわりつつ、「同社としてはコメントできない」と回答した。