国会議事堂周辺で2015年8月30日、安全保障関連法案への抗議活動が行われた。主催の市民団体は「10万人参加」を号し、国会前はプラカードを掲げた人々で埋まった。また民主・共産・社民・生活と主要野党代表がそろってスピーチするなど、抗議活動は大きな山場を迎えた。
実際の人数は現時点では明らかになっていないものの、大勢の人が押し寄せた永田町。そこでは何が起こっていたか、大規模デモの舞台裏に注目した。
あまりの混雑ぶりに「何この人! コミケかよ!」
30日13時30分過ぎ。国会議事堂に近い東京メトロ・永田町駅には、ピクリとも動かない長蛇の列ができていた。
14時のデモ開始に備え、少し早めに到着したつもりの参加者たちだったが、最寄りの出口は殺到する人で、電車が停まって間もなく一杯に。
「国会議事堂方面の出口は、ただいま身動きが取れなくなっております、反対側の出口をご利用ください!」
駅員の悲鳴めいた声が響く。やむなく長いホームを歩いて、国会とは逆方向の出口に向かうが、たちまちそこもパンク状態になった。駅員は懸命に誘導を続ける。
まだ駅の構内だというのにあちこちで、プラカードやのぼりが高々と掲げられている。早くもやる気十分――というわけではなく、あまりに人が多く、そうでもしないと仲間とはぐれてしまうのだ。
「何この人! コミケかよ!」
デモの参加者ではないらしい、若い男性が悲鳴を上げた。人ごみに巻き込まれながら、「俺たちこのまま、国会まで運ばれるんじゃね?」と連れと顔を見合わす。
結局、駅から地上に出るまでだけで、20分近くがかかった。高齢の参加者たちは、すでに疲れ切った様子で座り込んで休息を取っている。
レジはガラガラ、トイレに十数人の列
永田町駅にほど近いコンビニにも、長い行列ができていた。レジの列かと思ったが、良く見ると違う。むしろレジは空いている。行列の先は、トイレだ。軽く十数人はいるだろうか。
商品棚の方を見ると、冷たいドリンク類がごっそり品切れになっている。お弁当コーナーもほぼ空っぽだ。またチョコレートなど、手軽に食べられるお菓子もよく売れている。エナジードリンク類が売れ残っているのは、意外と高い参加者の年齢層を反映しているのかもしれない。
さて、肝心の国会前である。国会前交差点から正門前までのおよそ200メートルの道路は、まさしく人、人、人で埋め尽くされていた。もっともメディアなどで注目されている若い世代は、少なくはないが多数派というわけでもない。むしろスピーチを聞いていても、「私は55年前、この国会前におりましたが......」と、「60年安保」を経験した人たちさえ珍しくはないようだ。
蒸し焼きにされるほどの熱気の中で、「戦争反対! 安倍は辞めろ!」のコールが繰り返される。
満員電車以上の混雑の中で
だが、国会に近づくにつれて、前に進む人、引き返す人、その場に留まる人が交錯し、辺りはラッシュ時の満員電車を上回るほどの混雑に陥った。まっすぐ立っているので精一杯だ。
「危ない! 将棋倒しになるぞ!」
男性が叫ぶ。その上、雨脚も強まってきた。こうなるとコールどころではない。気分が悪くなったのか、青ざめた顔の女性が、オレンジ色のベストを来た救護班に先導されて後方へと引き上げていく。だがぺしゃんこ寸前の状況でも、文句を言う人はいない。デモは続く。
開始から2時間が経った、夕方16時。ひとまずメインの抗議行動は終了し、人々は一斉に駅に流れ込んだ。地上では主催者が、「戦いはまだ続きます! 足元に気をつけて帰ってください!」と連呼する。プラカードをかばんの端から飛び出させて、上品そうなご婦人が充実した表情で笑い合っている。
「今日は涼しくてよかったわねえ。あたし熱中症になるかと心配してたんだけど」