いよいよ中国経済の化けの皮がはがれてきた。かなり前から、中国経済はそれほど成長していない、不動産バブルが崩壊したとか言われてきたが、とうとうその時が来たのかも知れない。
中国国家統計局が2015年7月15日に発表した今年上半期のGDP伸び率は7.0%。なにしろ中国のGDP統計の発表は早い。日本は8月17日、アメリカは7月30日、イギリスは7月28日、ユーロ、ドイツは8月14日である。しかも、中国の統計はその後改定されない。これは、役人時代に統計実務をやっていた筆者からみたらあり得ないことだ。
あてにならない中国のGDP統計
しかも、李克強・現首相がかつて、GDP統計はあてにならず、電力消費、貨物輸送量、銀行融資だけがまともな統計だと語ったという「ウィキリークス」での有名なエピソードもある。ある英国調査会社は、中国の今年上半期のGDPを推計したら、3.2%増であったというレポートを出している。
筆者は、輸入に着目し、今(15)年7月までの輸入が前年同期比で14%も減少していることから、GDPは3%減少していてもおかしくないと思っている。輸入の伸びとGDPの伸びは、世界各国で安定的な関係があるからだ。輸入統計は相手国があるので誤魔化せないが、輸入が14%減少してプラスに経済成長とは考えにくい。
むしろ世界の国にとっては、中国の輸入減少、つまり中国向け輸出の減少が経済には打撃なので、中国がGDP統計をどのように捏造しても、実害は既にでている。
中国はアジア諸国との貿易依存度が高いが、各国の中国向け輸出依存度をGDPに占める割合でみると、台湾、シンガポールは2割弱、韓国、マレーシアも1割以上と高い。次にくるのは、ベトナム、タイで6-7%程度だ。日本は2-3%程度なので、欧米よりやや高いが、それほどでもない。
ロシア、ブラジルなどが思わぬ打撃を受けるかも
台湾、シンガポール、韓国、マレーシアらは、中国ショックで受ける影響が大きい。それらの国の景気が減速すると、それらの国への輸出国でも景気減速という具合に、景気低迷が世界中に伝播していく。こうした「波及効果」があるので、中国ショックを過小視すべきではない。
以上は、貿易量のルートを通じて、世界経済への波及を考えてみたが、商品価格を通じたルートもある。中国は、世界でトップクラスの資源消費国である。世界消費に占める中国シェアは、原油12%、金23%、綿花31%、アルミ54%、ニッケル50%、銅48%、亜鉛46%、スズ46%、鉄鋼45%。中国経済の後退は、こうした商品市場での価格下落要因になる。原油、金などの商品市場では価格低下の動きがある。その結果、こうした商品輸出に依存している途上国経済をも揺るがす可能性もある。ロシア、ブラジルなどが思わぬ打撃を受けるかもしれない。
日本経済への影響は、上にあげた国に比べるとまだましかもしれないが、対応策は検討するほうがいい。幸いにも、今国会開催中で会期はあと1か月ある。これまでのアベノミクスの成果である外為特会の含み益20兆円を使い、補正予算を今国会中に組むべきだ。補正予算は、政府に歳出権限を与えるだけなので、もし実際に使わなくても問題はなく、来年度にまわせばいい。麻生財務相は、「現時点で補正予算は考えていない」というが、準備しておけば、備えあれば憂いなしだ。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「さらば財務省!」、「恐慌は日本の大チャンス」(いずれも講談社)、「図解ピケティ入門」(あさ出版)など。