宅配ピザ店でアルバイトをしている男子大学生と思われる人物が、ピザを配達中に自動車に轢かれそうになったことに腹を立て、乗っていたカップルを「土下座させ説教し泣かせた」などとツイッターで呟いた。
土下座といえば2013年9月に札幌市にある衣料店「しまむら」で、女性客が従業員に対し商品に穴が開いていたと苦情を言って土下座をさせ、強要の疑いで逮捕されるという事件があった。「土下座」の文字でそれを思い出した人も多く、ネットが騒然となった。男子大学生の行動は犯罪になるのか。
配達中、猛スピードで右折する車にひかれかけた?
問題のツイートは2015年8月15日のもので、そこには、
「配達中、猛スピードで右折する車にひかれかけて広島の血が騒ぎカップル土下座させた」
「夜、20代半ばの男女を説教して泣かせたのは初めてだわ」
などと呟かれていた。フォロワーから「広島の血」についてツッコミを入れられると、広島の血ではなく両親の遺伝子によるものだと訂正し、大勢のヤンキー風の男女が写っている古い写真をアップした。
ツイッターに掲載されているプロフィールや過去の呟きから、この人物は男子大学生で、横浜にある宅配ピザ店でアルバイトをしているということがわかった。ただ、このツイートの中身がどこまで本当かは今のところはっきりしていない。
掲示板「2ちゃんねる」では15年8月19日にこの件でスレッドが複数立ち、
「強要罪だな。特定完了したら関係各所に通告する」
「やるならせめて個人としてやれよ」
などといった批判が起きた。そうしているうちに、この「2ちゃんねる」のスレッドに土下座をさせた本人だという人物が現れ、
「本人です。で、俺が何悪い事したの?轢かれたから警察にも連絡しないで謝らせただけで事を済ませた。それだけだよね。被害者はこっちなんですよ」
などと弁明した。
「就業規則に反するものであったならば、厳正な対応を図ってまいります」
本人を名乗る書き込みに対しては、
「つうか、相手の運転が悪いならキチンと処理しろよ。仕事中に事故られてんだから労災もおりるだろ」
などといった意見が返された。
「2ちゃんねる」内の書き込み全体としては、今回の騒動は13年9月に起こった「しまむら」の土下座事件とは性質が異なり、悪いのは大学生ではなく乱暴な運転をしたカップルの方なのではないか、といった意見が多いようだ。
しかし、話はそう簡単ではない。今回の「土下座騒動」を起こした大学生アルバイトは強要罪に問われないのか。アディーレ法律事務所の岩沙好幸弁護士に聞いてみた。
強要罪は「脅迫」又は「暴行」し、人に法律上の義務のないことを行わせた場合に成立する。
今回の場合は土下座という法律上の義務のない行為をさせられていて、暴行、脅迫はかなり広い範囲で認められるため、
「 土下座しながらカップルが泣いていたという状況も考えると 本件でも暴行・脅迫が認められるのではないかと思われます。したがって、強要罪が成立する可能性は高いですね」
と岩沙弁護士は説明する。
また、ネット上では不適切な運転をしていたカップルの方が悪いのだから、男子大学生に強要罪は成立しないのではないか、と考えている人もいるけれども「それは違います」と強調した。相手が悪かったとしても、強要罪にあたるような仕返しをしてはいけないからだ。実際にこうした場面に遭遇した場合の正しい対応としては、怪我をしたのであれば相手の住所・氏名などを確認し、交通事故として警察に届けること。車がぶつかっておらず、怪我もしていないが車が道交法に違反する運転だった場合は警察に報告することが考えられる。証拠があり、悪質だと判断されれば警察が立件する可能性もあるとしている。
ピザチェーンの本部に今回の事件の経緯と「真相」について取材を申し込んだのだが、従業員のツイートの一つ一つの内容に関してお答えすることはない、とした上で、
「事実確認をし、それが就業規則に反するものであったならば、厳正な対応を図ってまいります」
とだけ回答した。