年末にかけて本格化する2016年度税制改正論議で、ビールや発泡酒、「第3のビール」の酒税見直しが焦点の一つになりそうだ。
政府・与党は昨年末、ビール類の税率見直しを2015年度税制改正に盛り込む方向で検討していたが、衆院選で議論が中断し、今年末の「宿題」となっていた。財務省はビールを減税する一方、発泡酒と第3のビールを増税し、税額を一本化したい考えだが、ビールメーカーとの協議難航や消費者の反発も予想される。
税率格差が大きい
ビール類の税額は現在、原料に占める麦芽の比率などで異なっている。350ミリリットル缶当たりの税額は、ビールが77円で最も高く、麦芽の使用比率を下げるなどした発泡酒は原則47円。麦芽以外を原料にしたり、発泡酒に別のアルコールを混ぜたりした「第3のビール」は28円だ。
発泡酒が初めて登場したのは1994年。以来、ビール各社は税額が低く安さをアピールできる発泡酒や第3のビールの開発に力を入れてきた。税額の低い第3のビールは、低価格でビール風味を楽しめるとあって市場の拡大傾向が続いている。一方、税額の高いビールの市場は右肩下がりだ。
政府・与党は「類似した商品の税額が異なるのは公平性を欠く。税制が商品の売れ行きや開発の方向性を左右するのも望ましくない」との問題意識を持っており、昨年の税制改正論議で見直し作業に着手した。しかし、昨年12月の衆院選で議論が中断したため、2015年度税制改正大綱では「税率格差を縮小・解消する方向で見直しを行う」と言及するにとどめ、結論を今年末の改正作業に先送りしていた。
財務省にとっては、ビール類の酒税見直しは悲願といえる。税額の低い発泡酒などの市場拡大が酒税の税収減につながっているといら立ち、これまでもビールとの税額の差を縮めるため、発泡酒の税率引き上げなどを実施してきた。しかし、ビールメーカーは発泡酒より税額がさらに低い第3のビールを開発して「応戦」するなど、いたちごっこが繰り返されている。
税率一本化でビールは安くなる
複雑な税制をめぐって混乱も起きている。サッポロビールは「第3のビール」として販売していた「極ZERO」が国税庁から「第3のビールに該当しない」と指摘を受け、昨年に発泡酒として再発売し、過去の販売分の税額の差である115億円を追加納税したものの、社内検証の結果、「やはり第3のビールに該当する」として115億円の返還を求めている。
財務省や自民党税制調査会幹部は、こうした混乱に終止符を打つためにも、今年こそビール類の税額一本化に道筋をつけたい考えだ。ビール類全体の税収総額が変わらないように3種の税額を統一すると、350ミリリットル缶当たり約55円となり、この金額を軸に検討が進むとみられる。
だが、ビールが減税されたとしても、安さで人気を集めている発泡酒や第3のビールが増税されれば、消費者が「庶民いじめ」と反発するのは必至だ。来年夏に参院選を控える中、与党が「不人気政策」に踏み込めるかどうかは見通せない。
販売・開発戦略の練り直しを迫られるビール各社との協議も難題だ。アサヒビールとサッポロビールはビールの販売比率がそれぞれ6割強、5割強と半分以上を占めているが、キリンビールとサントリーは4割程度で発泡酒や第3のビールの比重が高い。税額一本化の影響は社によって異なり、意見調整は難航しそうだ。
財務省幹部は「国内市場が縮小する中、日本のビール各社は世界に打って出るべきなのに、税額の低い商品の開発に明け暮れている。税額が一本化されれば、世界で勝負できるビールの開発に集中できる」と意義を強調する。今年こそビール類の税額見直しに結論が出るのか、左党にとって目が離せない改正論議になりそうだ。