和食や風呂、ふとんなど、日本らしいアットホームなおもてなしが受けられると、外国人旅行者の「民泊」人気が高まっている。
2020年の東京オリンピック・パラリンピックを前に、民泊は東京周辺の宿泊施設の不足や空き家・空き部屋の解消、地方創生の一翼を担うことが期待されてもいる。いいことばかりのような「民泊」だが、旅館業者らがこれに「注文」をつけた。
今夏のピーク時、世界で一晩に100万人が利用
「民泊」は、自宅やマンションに空き部屋がある人が、そのスペースを旅行者に有料で、宿泊施設として提供するというサービス。その代表的な企業が「Airbnb」(エアビーアンドビー)だ。
同社は2007年に米サンフランシスコで創業されたベンチャー企業。起業から約7年間で、現在190か国・34000都市以上、4500万人のユーザーを集めるほどの急成長を遂げている。
日本では、少子高齢化に伴う人口減少や核家族化といった社会の変化で、空き家やマンションなどの空き部屋が増える傾向にある。そのため、空き家や空き部屋を有効活用したいというニーズが高まっている。
一方、円安などの影響で、日本を訪れる外国人旅行者が急増。そこで数日から数週間、部屋を借りたい旅行者と貸したい空き部屋のオーナー(ホスト)を、インターネットで効率的にマッチングする、Airbnbのようなマッチングサイトが普及しつつあるというわけだ。
Airbnbは「地元の家で暮らすように旅をしよう」がコンセプト。「民泊」のメリットを、「たとえば旅行者が商店街に行って買い出しをしたり、ホストから地元でオススメの店を紹介してもらったりと、地元の人のように暮らすような旅を体験できます」と話す。ホテルや旅館に泊まるよりも安価なこともある。
ホストは世界中の人々との出会い、繋がることができるうえ、空き部屋の有効活用で、短期間でも収入を得られるメリットがある。
Airbnbは、ホスト側から宿泊料の3%を、また旅行者側からは6~12%の手数料収入が得られる。
利用状況について、Airbnbは「グローバルでは、この夏のピーク時には一晩で100万人が Airbnbを利用したと推測しています」と話す。日本でも、ホスト数が急速に伸びており、「現在、国内でのホスト数は1万3000件を超えて、2014年と比べて3倍以上の伸び率を示しています。注目すべきは日本へのインバウンドの数で、外国人旅行者の利用は前年比4倍以上に成長しています」と、著しい。
利用者の宿泊数は、平均で4.6泊。最近は、日本人が日本の家庭などに宿泊するケースも増えているという。
旅館業は人の命を預かる「せめて営業認可を得てほしい」
もっとも反発の声もある。Airbnbのような、空き部屋のマッチングサービスがホテルや旅館、民宿などの「シェアを奪う」との見方や、「民泊」が旅行業法違反にあたるとの指摘がそれだ。通常、ホテルや旅館のような宿泊施設の運営には自治体の認可が必要になる。旅館などの宿泊施設は旅館業法の定めに従い、たとえば部屋数や防災・防火設備、防犯体制などの要件が課せられている。
また、賃借しているマンションなどの空き部屋を提供する場合には、「転貸」などの契約上の禁止事項に該当する可能性もある。
これらに違反しているのではないかというのだ。
Airbnbは営業許可の取得をホスト側に委ねており、「宿泊」についてはホスト側の自己責任としている。
旅館業者らの旅館業法違反などの指摘について、Airbnbは「ホストは自宅を時折貸している一般の地域住民の方々です。ホストへは法律や規則にそってリスティングをしていただくようお知らせしていますが、既存のルールが自宅を時折貸し出している方々に当てはまるのかは不明確です」という。そのうえで、「日本でもホームシェアリングに関する時代の流れにあった、現代的かつ一般の方々にもわかりやすいルールづくりに対する働きかけを行っていきたいと考えております」と説明する。
日本では、政府が国家戦略特区構想の一つとして旅館業法の特例を設けている。特区に指定された自治体が条例を制定すれば、空き部屋を宿泊施設に転用できるものの、「空き部屋マッチング」のようなホームシェアについては、今のところ明確な規定がないようなのだ。
一方、旅館やホテル組合の全国組織である全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(全旅連)は「(民泊について)反対しているわけではありません」という。
ただ、「旅館業は人の命を預かる仕事です。安心・安全を第一に考え、防災・防火、防犯などに必要な設備を整え、運営しています。各家庭(ホスト)で営業認可を得ていることは聞いたことがありません。せめて認可を得てもらいたいです」と、注文をつける。