東京電力・福島第一原発の事故以降、これまで止まっていた原発が本格的に動きはじめた。
そうしたなか、確認の意味合いもあるのだろうか、保険について関心が向いている。仮に原発事故が起きた場合、保険金の支払いはあるのだろうか。
「予測しがたい、むずかしいリスクにあたる」ので原発事故は免責事項に
原発事故などの免責事項について、東京海上日動火災保険や損保ジャパン日本興亜、三井住友海上火災の損害保険大手は、「福島原発の事故以前から、免責事項になっています」と口をそろえる。
保険の約款やしおり・パンフレット、重要事項説明書をみると、免責事項には「原子核反応または原子の崩壊による事故や核燃料物質(使用済み燃料を含む)もしくは核燃料物質によって汚染された物(原子核分裂生成物を含む)の放射性、爆発性その他有害な特性による事故...」といった記述がある。
つまり、原発そのものの事故のほか、核燃料の輸送での事故などによって被害を受けても損害保険の対象にはならないわけだ。
ある損害保険会社は、原発事故が免責事項となる理由を、「基本的には統計がとれないことがあります」という。「原発事故が起これば大災害となり、多数の被害者が出ることになります。万一、保障能力の越す災害になった場合のことを考え、予測しがたい、むずかしいリスクにあたることから、免責事項になっています」と説明する。
「原子力災害は起こり得るとしても、その被害は保険金の支払い能力をはるかに越える。原子力災害は、地震や津波、噴火などと同じ」ということらしい。
インターネットには、
「保険会社は原発事故のリスクを認識しているんだな」
「要は『当てにするな』というわけですよね」
といった批判的な声がある半面、
「保険会社の言い分はすごくまとも。保険が設定できないのは、徹底的にデューデリ(算定根拠の検証)を実施した果ての、総合的な判断の結果です。それだけ特殊な事例ということ」
「今後は放射能の被ばく特約のようなオプションが出てくるのでしょうね。掛け金がすごく高くなりそうですけど」
といった、保険会社を擁護する声も少なからずある。
ちなみに原発と同様に免責事項になっている自然災害の場合、最近は台風などの風水害については「特約」でカバーされるようになった。また、地震についても東日本大震災以降、地震保険(官民の共同保険)に加入する人が増えた。加入していれば、地震による被災の場合も一定の範囲内で保険金が支払われる。
ガン保険は、医師の「診断」で支払いが判断される
一方、生命保険は「約款は生保各社、また終身保険や医療保険などの保険商品によって異なりますが、一般に、そもそも原発事故などを理由にする免責事項は聞いたことがありません」(生命保険協会)と説明する。
加えて、「生命保険の場合、契約期間の途中に免責事項などを変更するようなことはありません」と話す。保険金は、加入時の契約に基づき支払われることになるわけだ。
インターネットには、
「えーっ! 20年も支払い続けていたガン保険があるから大丈夫と思ってた。でも、放射能で白血病や甲状腺がんなどに罹っても、支払いがないんなら、何のためのガン保険かわからん」
「お金のない被害者はいつも泣き寝入りです。高額な医療費が払えないと生命の維持が危ぶまれるのに...」
などの記述が目立つ。しかし、そこにはどうやら誤解があるようだ。
たしかに、約款には保険金の支払義務を負わない免責事項として、戦争や地震、津波、噴火などのケースが記載されているものの、東日本大震災のときも、国内のすべての生保が保険金の支払いに応じている。
ある生保会社は「約款には支払わないケースが記載されていますが、これまで免責事項を適用したケースはないと思います」と話す。
保険商品に詳しい、ファイナンシャルプランナーでジャーナリストの鬼塚眞子氏は、「死亡保険も、医療保険も、原発事故が原因でも保険金は基本的には支払われます」という。
死亡保険の場合は、病気に罹った原因が何であろうと、死亡したことに対して保険金が支払われるので、告知義務違反でない限り支払わる。同じように医療保険も、「たとえば、ガン保険の場合、がんに罹った原因ではなく、医師の『診断』で支払いが判断されますから、保険金は支払われます」と話す。