三菱自動車のスポーツセダン「ランサーエボリューション」(ランエボ)が現行モデルの10代目(ランエボx)で生産終了になることが決まり、最終モデル「ファイナルエディション」がリリースされ、話題を呼んでいる。
多くの自動車雑誌は、ライバルだったスバルインプレッサWRX-STIとの比較特集を組み、23年におよぶランエボとインプレッサの歴史を振り返っている。
ファンが注目したは筑波サーキットのタイム
それは、ランエボとインプレッサが技術開発でしのぎを削り、世界ラリー選手権の頂点に立った歴史だ。そして日本車の優秀さを世界に知らしめた歴史でもあった。ランエボの撤退は三菱自動車の経営判断だが、日本の自動車史の一時代が終わったことを意味しており、惜しむファンは多い。
自動車雑誌はランエボ・ファイナルエディションをインプレッサ(現在はスバルWRX)との「最終決戦」と位置づけている。
『ドライバー』(八重洲出版)は2015年9月号で、「永遠のライバルついに決着 ランエボvsWRX最終章」という大特集を組んだ。『ベストカー』(講談社)8.26号は「最後の決戦 ランエボvsWRX-STI 真剣勝負 ファイナルエディション313PSの実力とは?」と見出しを掲げ、ランエボ最終モデルを徹底解剖した。『CARトップ』(交通タイムス社)7月号は「三菱ランエボvsスバルインプレッサ最終章 これがホントのホントに最後」と題し、筑波サーキットのタイムアタックの記録などを通し、ライバルの歴史を振り返っている。
自動車雑誌はインプレッサとランエボが登場した1992年から、新しいモデルが出るたびに両車の比較テストを行ってきた。ファンが最も注目したのは筑波サーキットのタイムアタックだ。『CARトップ』は清水和夫氏、中谷明彦氏、「ドライバー」は木下隆之氏といった日本を代表するレーシングドライバーを起用し、歴代のランエボとインプレッサをテストした。
「驚きの復活劇」を期待
ランエボとインプレッサの筑波タイムアタックは熾烈な競争だった。CARトップ誌の歴代ベストタイムはインプレッサWRX-STIスペックC(GDB)が1分4秒17、ランサー・エボリューションⅧMR RSが1分4秒40。これに対し、ドライバー誌はランエボⅧRSが1分3秒633で、インプレッサWRX-STIスペックC(GDB)の1分3秒920をわずかにリードしている。
両車のタイムはほぼ互角だったが、2000年代前半がピークだったタイム争いの現場では、三菱自動車と富士重工業(スバル)のエンジニアはもちろんのこと、両車をテストする自動車雑誌やレーシングドライバーの間でも「競争」があったと、『ドライバー』9月号は「裏話」を伝えている。
「早朝に群馬(スバル)や岡崎(三菱)からアタック用のクルマが直送されることもあった。技術陣やメカニックと大量の交換パーツ付きで。これからレースの雰囲気だった」
「メーカーの人もタイムを測っていて、タイヤの空気圧調整やらのメンテナンスをした後、『もっとタイムは出ますか』『もうちょっと行けますよね!』と肩を押されることさえあった」
「事前に筑波でテストしているので、どれだけのタイムが出るかメーカー側はわかっていた。それほど専門誌に載る筑波タイムの意味は大きかった」という。
いずれにせよ、ランエボとインプレッサは「毎年のように進化を続けて世界最強スペックに到達した」(『CARトップ』7月号)。これについては「お互いにライバルが存在し、切磋琢磨したから世界の頂点に立つことができた」と、両社の開発陣も認めている。
ライバルのインプレッサは「スバルWRX」となったが、問題はランエボ亡き後のスバルだろう。国内でライバルを失った最近のスバルは「BRZやWRXのベンチマークはポルシェ」と公言している。「でも、またいつかスバルと三菱の対決をどこかで見たい」というファンは多い。「ファイナルエディションの後に驚きの復活劇があると期待したい。三菱の経営が立ち直れば、あり得ない話ではない」(『ドライバー』9月号)との期待は、今なお根強い。