民事再生手続き中のスカイマークの債権者集会が2015年8月5日に開かれ、債権者による投票の結果、ANAホールディングス(HD)が米デルタ航空を制して支援企業に選ばれた。ANAが欧州エアバスなど大口債権者へ将来の航空機購入の意向を伝え、支持を取り付けたことが勝因となった。
独立系のスカイマークが事実上、ANA陣営に入ることで「第3極」は消え失せ、日本の航空業界は寡占状態が強まる。運賃高騰や路線廃止で利用者離れが起こることも想定され、スカイマークの再建は今後も波乱含みだ。
イントレピッドを怒らせた
「ふたを開けてみるまで、ひやひやしながら待ち受けていた。正直、心から安堵している」。ANAHDの長峯豊之取締役は債権者集会後の記者会見で、投票結果を受けての感想を率直に語った。安堵の表情からは、大口債権者との交渉が綱渡りだったことがうかがえた。
スカイマークの支援企業選定が異例の日米航空大手による争奪戦に発展したのは、ANAが大口債権者の米リース会社、イントレピッド・アビエーションを激怒させたからだった。この間の経緯をおさらいしておこう。
ANAは当初、スカイマークがキャンセルしたリース機を引き受ける約束をイントレピッドと交わしていた。キャンセルによって損失が生じるイントレピッドは喜び、ANAによる支援に賛同する意向を表明した。
ところが、ANA支援を柱とする再生計画案がまとまると、ANAはリース機引き受けの約束を一方的に破棄した。ANAは「約束に法的拘束力はない」と説明するが、文書まで交わしたにもかかわらず約束を破棄されたイントレピッドの怒りは収まらず、独自の再生計画案を東京地裁に提出。デルタ航空を支援企業候補に担ぎ出し、ANAへの対抗姿勢を鮮明にした。
焦ったのはANAだ。イントレピッドが航空会社の支援企業候補を立てられないと高をくくっていたのに、大口債権者の欧州エアバスなどと取引関係が深いデルタ航空が名乗りをあげたからだ。
「手強い相手」(ANA幹部)の登場にANAは決死の巻き返しを図った。エアバスに近年の機材購入実績を強調するとともに、将来的な機材調達の構想も提案。これまで取引がなかった4位の大口債権者、米リース会社CITに対しても、取引開始の可能性を示して自案への投票を要請した。スカイマークの取引業者ら小口債権者にも文書を送り、安定的な取引継続のためにANAを支持するよう訴えた。
投票の結果、ANA支援案は債権総額の約60%、債権者数の約78%の賛成を獲得。いずれも過半数を押さえるという債権計画決定要件をクリアした。ANAHDの長峯取締役は、エアバスとの交渉で特定の機材購入契約はしていないと説明したが、「今後の事業戦略の可能性を評価してもらえた」と将来的な機材調達構想が大口債権者の票獲得につながったことを示唆した。
羽田空港はANAが6割に
債権者集会直前に急きょまとめられたデルタ支援案が、スカイマークなどとの協議を経ておらず「生煮え」状態だったことも、債権者に「実現性に難がある」(取引業者)との疑念を抱かせ、ANA支援案に票が流れる要因となった。デルタの森本大・日本支社長は集会後の記者会見で「スタートが遅かった」と悔しさをにじませた。
ANAは今後、スカイマークに16.5%を出資するほか、役員も派遣し、共同運航や機体整備支援を通じて再建を急ぐ。スカイマークが事実上、ANAグループの一員になることで、羽田空港発着の国内線に占めるANAグループのシェアは6割に達する。
長峯取締役は「スカイマークの運賃設定には関与しない」と改めて表明。スカイマークの井手隆司会長も「大手のような運賃では顧客は離れる。これくらいの(安い)運賃でないと乗らないという市場をしっかり押さえる」と従来の低価格戦略を維持する方針を強調した。
だが、業界関係者の間では「これまでのような激しい価格競争は回避され、スカイマークの運賃は上がる」との見方が大勢だ。低価格にひかれてスカイマークを利用していた顧客が離れるリスクもある。
航空行政のあり方も問われそうだ。ANA、日本航空に次ぐ「第3極」の新興航空会社を育て、競争を促す政策は完全に頓挫した形だが、太田昭宏国土交通相は8月7日の記者会見で「再生計画案では(スカイマークの)独立性を維持すると明記されている。引き続き注視し、適切に指導したい」と述べるにとどまった。
与党内では民主党政権時代に公的支援を受けて再生した日本航空への反発が強く、ANAびいきが多いため、「国交省もANAの勢力拡大に関して何も言えない」(関係者)のが実態のようだ。スカイマークが独自性を維持しつつ再建を果たせるのかが注目される。