漱石の「こころ」もトップ50入り
じつは、最近売れている文豪作品は「命売ります」だけではない。たとえば、筑摩書房では昭和の流行作家、獅子文六が約50年前に書いた「コーヒーと恋愛」(ちくま文庫。原題は「可否道」)が2013年4月の復刊文庫化とともに話題となり、発行部数は現在累計(13刷)で5万7000部にのぼる。
さらに、「七時間半」も反響を集めているという。「いずれの作品も手にとりやすく、読みやすさを前面に押し出し、むずかしそうといったイメージを払しょくするため、装丁に凝りました」と話す。
芥川賞作家となった又吉直樹の「火花」効果もあるようで、最近の文豪作品の人気について、「又吉さんが太宰治はじめ、文豪とよばれる作家の魅力を積極的に発信されている影響は大きいと思います」と、書店関係者は口をそろえる。
太宰治の長編小説「人間失格 改版」(新潮文庫)は、丸善やジュンク堂などの書店大手の売れ筋をランキングする、最新の「hontoランキング」(文庫一般、週間)で、43位に付けた。hontoランキングを運営するトゥ・ディファクトによると、「太宰作品は又吉さんのイチ押しですからね。7月最終週にはベスト10入りしていました」と話す。
最新ランキングでは、三島由紀夫の「命売ります」が33位。夏目漱石の「こころ 改版」(新潮文庫)も34位と、50位以内に入っている。
純文学ブームはこれまでも、たびたび起ってきた。2009年~10年にかけて、太宰治の「斜陽」や「人間失格」、小林多喜二の「蟹工船」が相次いで映画化されたり、テレビでは「青い文学シリーズ」として太宰治、坂口安吾、夏目漱石、芥川龍之介らの名作がアニメ化されたりと、映像化を機に本が売れた。
また最近は、萩原朔太郎を題材とした漫画「月に吠えらんねえ」(清家雪子著)をきっかけにした朔太郎人気や、詩人・北原白秋が読まれるなど、「文豪作品」が見直されていることは確かなようだ。低迷する出版業界にとって、明るさを取り戻すきっかけになるかもしれない。