海を漂流するプラスチックごみによる環境汚染への懸念が高まっている。国際的な環境団体の船が世界の海の調査の途中、日本に立ち寄ったほか、環境省や大学などが調査に乗り出した。
特に微小なプラスチックごみは生態系への影響が心配されており、国境を越えた取り組みが求められている。
ワーストワンは中国
プラスチックは年々消費が拡大し、2012年の生産量は全世界で2億8800万トンに達したとされる。このうち、年間480万~1270万トンが海洋に流出しているとの試算を、2月に米ジョージア大のチームがまとめた。海に接する192の国や地域を対象に、2010年の海沿い50キロ以内の人口密度、1人当たりの廃棄物の排出量、廃棄物に含まれるプラスチックの割合、不適切に廃棄処理される割合などのデータを基に算出した。
国別では(1)中国=132万~353万トン(世界合計の約28%)、(2)インドネシア=48万~129万トン(同約10%)、(3)フィリピン=28万~75万トン(同約6%)など、人口が多く、リサイクルや焼却、埋め立てなどの廃棄処理が適切に行われていない国が上位に並んだ。
米国が20位(同約0.9%)と、先進国で唯一トップ20入り。日本は30位(同約0.4%)だった。チームは不適切な廃棄処理を5割減らせば、2025年までに流出量を4割減らすことができるとしている。
プラスチックごみでも、特に問題なのが波間を漂ううちに砕けて微小になったもの。例えばペットボトルなどのプラスチックは、波や温度差、紫外線で砕けて細かくなるほか、研磨剤として化粧品や歯磨き粉に含まれる「マイクロビーズ」と呼ばれるポリエチレンの粒子、製品に加工される前のプラスチック粒「レジンペレット」などがあり、5ミリ以下のものはマイクロプラスチックとも呼ばれる。
これら微小プラスチックには元々、有害物質が含まれ、しかも石油からできているためPCB(ポリ塩化ビフェニール)などの有害物質を吸着しやすい。これを魚や海鳥が間違えて食べてしまう例が相次ぎ、欧州では北海の養殖場のムール貝、フランス産のカキの身から微小プラスチックが見つかったとの報告も出され、海の生態系を壊し、海産物を通じ人間の健康にも悪影響を与える恐れが指摘されている。
巨大な渦を描いて漂流
環境省は初めて実態調査を2014年7~11月に実施し、今年4月に結果をまとめた。日本近海で陸から10キロ以上離れた外洋を中心に、東京海洋大の練習船2隻で網をひき、水面に浮かぶ0.35~5ミリの破片を回収するなどの方法で行った。その結果、微小プラスチックは海水1立方メートル当たり平均2.4個含まれていた。海域別では日本海や九州南部沖で多かった。
ちなみに、2010~12年の別の調査では、瀬戸内海沿岸が同0.4個で、単純比較はできないものの、沿岸に比べ、沖合の方が多いという結果。このほか、対馬海峡付近ではレジ袋が1平方キロメートル当たり最大137個、発泡スチロールが同60個見つかるなどごみ漂流が目立ち、沿岸から200キロメートル以上離れた沖合の海底には漁具が多く沈んでいるなど、深刻な汚染の実態の一端が明らかになった。
内外の研究機関などの調査の動きも相次ぐ。7月下旬に横浜に寄港したのがスイスの環境保護団体「レース・フォー・ウォーター財団」のヨットで、3月にフランスを出港し、9か月間かけて世界を回る調査の途上に立ち寄った。地球全体を見ると、特にプラスチックゴミが多く漂流している海域が5か所(太平洋2か所、大西洋2か所、インド洋1か所)あり、海流などの影響で直径数千キロの巨大な渦を描くようにゴミが漂流し続けているとされるが、詳しい実態は分かっていないことから、今回の調査航海になったという。
年間1兆5000億円の経済損失
日本でも、九州大など4大学が2015年度から、世界で初めて南極海での実態調査を計画する。これまで各国の調査は沿岸部中心だったが、生活圏から離れた場所を調べれば世界的な分布の把握が期待できるという。環境省の環境研究総合推進費を受け、3年間に2回、蛇行しながら南極海を往復し、プラスチックごみの分布のほか、発生源や付着する汚染物質を調べる予定だ。
このほか、オランダのNPOが開発したごみ除去設備(全長2キロの巨大な「浮き」を海面にV字形に浮かべて海流や風で自然に集める)の実験が、世界で初めて、2016年にも長崎県・対馬沖で始まると報じられている。
国連環境計画(UNEP)の今年の報告書は、微小プラスチックを含むプラスチックごみが海洋に与える経済損失(生態系や漁業、観光への影響、清掃費など)は少なくとも年130億ドル(約1兆5000億円)と試算。プラスチックごみ問題はもはや見過ごすことはできないレベルにきている。温室効果ガスの排出削減などと並び、プラスチックごみ対策も人類が早急に取り組まなければならないテーマだ。