世界一の自動車市場となった中国で、韓国車の売れ行きが急速に悪化している。
中国の自動車市場は2015年に入って以降、景気の減速で全体的に伸び悩んでいるが、そうした中で日本車の好調ぶりが目立っていることが、韓国車「失速」の背景にあるといわれる。
現代自動車 新工場を着工、過剰投資の恐れも
「中国市場は最近になって、自動車販売の不振が鮮明になっている」と、日本総合研究所調査部の上席主任研究員、向山英彦氏は指摘する。
中国汽車工業協会によると、中国の自動車販売台数(出荷台数ベース)は、2015年上半期(1~6月)に前年同期比1.4%増の1185万300台にとどまった。
ここ数年、中国の自動車市場は安定的に伸びてきたが、伸びは鈍化。14年は、13年の伸びを下回る6.9%増だったが、15年は4月以降3か月連続で前年割れとなるなど、急ブレーキがかかりはじめた。「基本的には、景気の減速が影響していると考えられます」と、向山氏はいう。
なかでも、韓国の現代自動車の不振は著しい。同社の15年上半期の営業利益は前年同期比17.1%減、売上高は1.4%減、当期純利益は13.%減とさっぱり。全体の販売台数も251万5777台で前年同期と比べて3.2%減った。韓国経済の不振も響いているが、とくに中国市場での販売不振が顕著で、上半期の販売台数は5.8%減の81万3400台だった。
現代自動車にとって中国は最大の市場だ。2002年に北京現代汽車を設立。08年に第2工場を、12年には第3工場を稼働させた。それに伴い、販売台数も大きく伸びた。
販売の拡大を背景に、生産能力をさらに拡張。15年中に商用車工場(四川省)を稼働するほか、4月に乗用車の第4工場(河北省)、6月に第5工場(重慶市)の建設に着工。乗用車の2工場が稼働すれば、生産能力は現在の年間121万台から181万台に増加する。
その矢先に、販売に急ブレーキがかかったわけだ。
向山氏は「5月は前年比12.1%減、6月は30.5%減と販売が急減。それを受けて、現代自動車は韓国と中国で減産をはじめました」とし、現代自動車の販売減少と減産で、韓国の対中国部品の輸出額が15年上半期に3.6%減(13年は25.7%増、14年は8.8%増)となるなど、影響が広がりはじめているという。
向山氏は、「現代自動車はSUV(多目的スポーツ車)の生産を増やし、年後半には新型ツーソンも投入する予定なので、中国での販売の巻き返しが期待されます」としながらも、「むしろ懸念されるのは過剰生産で、15年に2工場を着工に踏み切ったため、販売が伸びなければ過剰投資になる恐れがあります」とも指摘。厳しい状況が続きそうだ。
中国車の低価格攻勢に沈む・・・
一方、日本車は好調だ。中国の自動車市場は景気減速もあって、現代自動車のみならず、独フォルクスワーゲン(VW)や米ゼネラルモーターズ(GM)も伸び悩んでいるだけに、日本車が突出している。
中国での、2015年1~6月の累計販売をみると、トヨタ自動車は10.1%増の51万2800台で、通年では110万台の達成を目指している。主力の「カローラ」が販売をけん引。セダンの「レビン」も好調という。8月4日には、中国・天津市で590億円をかけて、10万台の生産能力をもつ新型車の生産ラインを建設することを発表、勢いづいている。
ホンダの販売台数は30.4%増の46万901台。7月単月も、前年比50.4%増の7万3099台と、5か月連続で前年実績を上回った。14年秋に投入したSUVの「ヴェゼル」と「XR‐V」が好調。「アコード」も伸びた。
1月に発売した「ヴェヌーシア」ブランド初のSUV「T70」がけん引した日産自動車も、5.7%増の58万7900台。マツダは17.3%増の11万5979台で、上半期としては過去最高を更新。8月には「マツダ6アテンザ」の2105年モデルを投入する予定だ。
日本車が好調な要因について、前出の日本総合研究所の向山英彦氏は「マーケットのニーズをとらえたことが奏功した」とみている。新車の投入や価格の引き下げにも熱心。売れ筋はSUVだが、品質がよい日本車が見直されていることもある。
向山氏は、「最近はどのメーカーもSUVに傾注していますが、中国の地場メーカーも低価格攻勢に出ています。もともと韓国車は価格面での優位性で勝ってきたところがありますから、それよりも安く、また品質で変わらないとなると売れ行きに響きます」と話す。現代自動車の、モデルチェンジの遅れもあるという。
中国車はここ数年でかなり競争力をつけており、「すでに韓国系自動車のレベルに達している」との見方もある。在庫処分を進める欧米メーカーによる値下げも、韓国車にとっては痛いようだ。