東芝は2015年7月29日、利益水増し問題で追加の社内処分を発表した。過去にパソコン事業などを担当していた執行役上席常務が同日付で辞任。室町正志会長兼社長が役員報酬を9割カットするなど、取締役、執行役の計16人が報酬の一部を返上するとした。
一連の問題で辞任したのは、田中久雄前社長、佐々木則夫前副会長ら8人の取締役と西田厚聡前相談役を含め、計10人に達した。主要な経営幹部がほぼ一掃された格好で、会計問題を巡る東芝の混乱は当面続きそうだ。
そして、ほとんどの役員がいなくなった
東芝には16人の取締役がいたが、このうち半数が事実上、引責辞任した形だ。8月中旬に発表される新たな経営体制では、経営監督機能を果たせなかった社外取締役4人も大幅刷新が避けられない見通し。首脳陣で唯一残ったのは、7月22日付で田中氏の後任となった室町正志会長兼社長だけ。9月下旬の臨時株主総会後に発足する新体制では室町氏が社長専任となり、経営立て直しの役割を果たすとの見方が強まっているが、前途は多難だ。
言うまでもなく、今の最大の課題は、失った信頼をどう回復するか。日本取引所グループの清田瞭最高経営責任者(CEO)は7月28日の記者会見で「東芝はコーポレートガバナンス(企業統治)の先駆的企業という評価を完全に裏切った」と批判。東芝の田中前社長も、引責辞任を表明した7月21日の記者会見で「創業から140年の歴史の中で最大ともいえるブランドのイメージの毀損があった」と危機感をあらわにした。
今回の問題が表面化した今年春時点では、東芝社内で「会計上の技術的な問題」などと楽観視する雰囲気が漂っていた。しかし、同社が設置した第三者委員会は歴代経営トップが関与して「組織的な利益水増し」があったと認定。目先の利益ばかりを重視する「当期利益至上主義」がまん延し、会計ルールを遵守する意識が欠如していたと断じたのは記憶に新しい。
この第三者委の報告を踏まえ、東芝は7月29日、当面の再発防止策を発表。社長が過大な利益目標の達成を現場に迫り、利益水増しを招く原因の一つとして注目を集めた社内会議「社長月例」を廃止すると表明したほか、(1)取締役会で経営監視役を担う監査委員会の委員長に社外取締役を任命する、(2)取締役会メンバーに弁護士や公認会計士を加え、過半数を社外取締役にする、(3)取締役会に対する業務執行状況の報告を従来よりも拡充する――なども盛り込んだ。
会長が社長を酷評
ただ、東芝の対応に対し、政府内や法令遵守の専門家の間で冷ややかな見方が多い。東芝は2003年、米国流の経営形態で社外取締役の権限を高めた「委員会等設置会社」にいち早く移行。企業投資の先進企業を自負してきたが、実際には経営トップらの暴走を止められなかったためだ。「形だけ社外取締役を増やしても意味がない」という指摘に、東芝側は反論できない状況に陥っている。
そもそも実態解明が不十分との指摘は根強い。社長経験者である西田氏が会長時代、当時の佐々木社長の経営手腕を社の内外で酷評し、同社の「利益至上主義」に拍車をかけたとの見方があるが、第三者委の報告書はトップ間の「確執」には切り込まず、「消化不良」との批判が出ている。
当時、西田氏は週刊誌上で佐々木氏を「利益を出しても日立に負けている」「売上目標を達成したことがない」と公然と批判していたのは有名な話だ。このため、政府内では「首脳間の確執まで踏み込んで利益水増しの原因を究明しなければ、再発防止を図るのは難しい」との声が上がっている。
利益水増しは東芝の主要事業全体で横行し、多くの関係者が不正会計に手を染めた。第三者委の報告書の発表と社長の引責辞任で一区切りはついたものの、問題の根は深く、まだまだ尾を引くのは間違いない。