生後3か月の赤ちゃんの顔写真を携帯電話で撮影したところ、フラッシュが原因で赤ちゃんが失明した――中国の新聞最大手の人民日報が写真付きの電子版でこう報じた。
この記事をイギリスの新聞、デイリー・メール(The Daily Mail)が電子版で紹介したところ、読者から「嘘記事を載せるな!」「これは結膜炎の症状」などといった批判が寄せられ、コメント欄は「炎上」状態になった。
「適切な検証もなく記事にしたDMの方が衝撃的だ!」
人民日報の2015年7月26日付けの電子版によれば、訪ねてきた友人が生後3か月の赤ちゃんの顔を携帯電話で撮影したところ、スイッチを切り忘れていたフラッシュが光ってしまった。急いで病院に連れて行ったが、右目が取り返しがつかないほどの状態になり、左目も失明寸前だった。専門家は、赤ちゃんは光に反応し瞼を閉じるけれども、僅かな時間であっても光が眼球に当たると取り返しの付かないことになる、などと説明。記事にはこの赤ちゃんのものと思われる眼球の写真が掲載されていて、中央に焦げたような小さな穴がある。この部分が黄斑(網膜の中心)部で、「修復ができないほど燃えた」との説明が付いていた。
黄斑部は眼にとって非常に重要で、4歳になるまで未発達で最も脆弱な部分であり、今回のようにフラッシュを浴びると大変なことになる、と説明。ただし、4歳を過ぎればいいというものでもなく、目にとって光というのは危険なものでもあり、例えば就寝する際に部屋の明かりを付けたままと消した場合とでは、付けたままの方が近視になる率が高い、とも書いている。
俄かには信じられない内容だが、デイリー・メールが15年7月27日に電子版でこの人民日報の記事を紹介したところ、「そんな話は聞いたことがない」「なぜ嘘記事を掲載するんだ」などとちょっとした「炎上」騒ぎになってしまった。コメント欄には、
「この話が本当なら、今まで何百万人の赤ちゃんが盲目にされているのだろう」
「DMは適切な検証もなくこんな記事を掲載したことのほうが衝撃的だ」
「私はニュースを読んだり聞いたりすることを辞めます。そのほうが幸せな人生が送れる」
「我々は中国に行きました。中国からは多くの虚偽が出てきます」
など批判的なものが並んだ。そして、失明したとされる赤ちゃんの写真を見る限りでは、フラッシュが原因ではなく、結膜炎など何らかの眼疾患にかかっている可能性がある、と指摘する人が複数いた。
日常的なストロボ光では視力への影響はない
実はこれまでも、カメラのフラッシュが赤ちゃんの目に悪いのではないのか、フラッシュは焚かないほうがいいのでは、といった議論がかなり昔から繰り返されていて、Q&Aサイトでの相談や、眼科医師への問い合わせなどがネット上に数多く出ている。眼科医の回答やHPに書かれている説明は、あまりに強い光を受けた場合は、最悪失明するケースもあるが、「普通のカメラの写真撮影程度であれば影響はありません」というものばかりだ。フラッシュの光は強いけれども、持続時間は数百分の1秒から数万分の1秒というごく短時間だからだという。読売新聞の医療サイト「ヨミドクター」にも回答が出ていて、生まれて1時間もしないうちに父親がストロボを光らせて顔の写真を撮ってしまった、という質問に対し、
「日常的な写真撮影に用いるストロボ光で、赤ちゃんの視力に影響が出ることはなく、もちろん失明の原因にはなりません」
と回答している。危険なのはラッシュよりもはるかに強い光で、太陽光を直接7秒以上見た時や、コピー機の光を4時間以上連続であびた時だ、とも説明している。
メ―カーのキヤノンに対し、フラッシュが失明の原因になるのか、と問い合わせたところ、
「弊社は全製品にわたり、安全性に配慮し、企画・設計をしております。ストロボ発光についても、安全には十分配慮しております」
という返事だった。