内閣の重要政策について首相に進言するはずの首相補佐官が、結果的に首相の背後から鉄砲を撃つという珍しい事態に発展している。礒崎陽輔首相補佐官が、政府が今国会での成立を目指す安全保障関連法案と憲法との関連について「法的安定性は関係ない」と述べたためだ。
政府はこれまで、「法的安定性には配慮している」といった答弁を繰り返しており、発言をそのまま受け止めれば、政府見解と真っ向から対立することになる。野党は礒崎氏更迭を求めるなど攻勢を強めており、発言が政府の足を引っ張ったことは確実だ。
礒崎氏をめぐっては、15年5月にもポツダム宣言の文言に反発するかのような発言をして政府が沈静化を図ったという経緯がある。いわば「イエローカード」が出ていたとも言えるが、それからわずか2か月後にオウンゴールを繰り返してしまった形だ。だが、この期に及んでも礒崎氏はツイッターでけんか腰の論戦を展開しており、このままでは新たな失言が飛び出す可能性は高い。
谷垣幹事長は渋い顔、菅官房長官もかばいきれずに注意
一般に「法的安定性」とは、大まかに言えば朝令暮改を慎み、法律の適用を安定させることを指すとされる。安保法制をめぐっても、自民党の高村正彦副総裁を筆頭に、政府・与党側は、
「これまでの憲法解釈との論理的整合性と法的安定性に十分留意している」
などと繰り返し主張してきた。ところが礒崎氏は7月26日に地元の大分市で行った講演で、
「法的安定性は関係ない。わが国を守るために必要な措置であるかどうかは気にしないといけない」
などと述べた。これには野党から補佐官更迭を求める声が出た上、自民党の谷垣禎一幹事長も7月27日の会見で、
「伝えられるように『関係ない』とおっしゃったのだとすると、これは極めて配慮の欠けたこと」
「もし字義通りそのようなご発言をされたとすると、ちょっと違いますね」
と渋い顔だ。菅義偉官房長官も、7月27日午後の会見では、
「『関係ない』という発言をした風には理解していない。全体の文章の中で、そういうことではないと思っている」
「法的安定性を否定するようなことはなかったと思っている」
とかばおうとしたが、7月28日午後の会見では、
「昨日から参議院の審議が始まるところ(での発言)で、誤解を与えるような発言は慎むべき」
と電話で注意したことを明らかにした。菅氏によると礒崎氏は、
「申し訳なかった」
と応じたというが、礒崎氏のツイッターを見ると本当に「申し訳ない」と思っているかは疑わしい。