東芝が組織的に利益を水増しした不正会計問題は2015年7月21日、田中久雄社長、佐々木則夫副会長、西田厚聡相談役の歴代3社長はじめ、取締役16人の半数が引責辞任する異例の事態に発展したが、問題は東芝にとどまらない。
今後、不正を見抜けなかった新日本監査法人の責任が厳しく問われることになりそうだ。事件の調査で日本企業と監査法人のコンプライアンス(法令遵守)の問題に発展し、日本企業への信頼を毀損することになれば、日本市場の株価などに影響を与える可能性もある。
「オリンパス」で業務改善命令を受けていた
東芝はグループ売上高6兆5000億円超、従業員約20万人の日本を代表する大企業だ。その歴代3社長が「チャレンジ」と称して、総額1500億円もの利益を水増ししたのは前代未聞だ。さらに、その東芝の決算書の監査を担当した新日本監査法人も、日本を代表する4大監査法人の一角を占める名門だけに、市場関係者の関心も高い。
監査法人が株式市場で果たす社会的責任は重いものがある。その名門監査法人が複数年にわたり、これらの巨額な不適切会計を指摘してこなかったとすれば、株式市場で日本企業と監査法人の関係が「馴れ合い」と疑われることにもなりかねず、東芝不正会計問題の隠れた焦点になっている。
不正会計の調査に当たった東芝の第三者委員会(委員長・上田広一元東京高検検事長)は、報告書で「不適切会計は経営判断で行われ、是正は事実上不可能だった。社長への月例報告会では、社長が『チャレンジ』と称して各カンパニー社長に収益改善の目標値を示し、達成を強く迫った」と経営陣の責任を厳しく指摘した。しかし、監査法人については「(新日本監査法人による)外部監査は十分に機能しなかった。問題処理の多くは会計監査人の気付きにくい方法を用いていた。会計監査人に事実を隠したり、事実と異なるストーリーを組み立てた資料を提示したりした」と述べるにとどまった。
しかし、これで新日本監査法人が免責されるとは限らない。新日本監査法人は2012年7月、オリンパスの損失隠し問題でも不正を見逃しており、金融庁からあずさ監査法人とともに業務改善命令を受けたという過去のキズもあるからだ。
大手の一角が解体に追い込まれた前例も
大企業の不正経理を見逃した監査法人の責任が問われたケースはこれまでにもある。近年では2007年、有価証券報告書の虚偽記載(利益水増し)が見つかった日興コーディアルグループ(当時)の監査を担当した「みすず監査法人」(旧中央青山監査法人)が大きな問題となった。金融庁は「虚偽記載を見逃した過失はあるが、重大とは認められない」と判断し、みすず監査法人と担当の公認会計士の行政処分を見送ったものの、みすず監査法人は他の監査法人に業務を移管し、2007年7月31日付で解散した。
みすず監査法人は旧中央青山時代、虚偽記載が問題となった日興の2005年3月期の有価証券報告書を適正と認めていた。旧中央青山はカネボウの粉飾決算事件で、所属する会計士が逮捕され、金融庁から2か月間の業務停止命令を受けていた。こうして大手の一角を占めたみすず監査法人は解体に追い込まれた。
今回の東芝の不正会計問題を受け、日本公認会計士協会の森公高会長は7月21日記者会見し、新日本監査法人について、監査が適切だったかどうかの調査を始めたことを明らかにした。森会長は東芝問題について「資本市場の信頼性の観点から誠に遺憾な事態だ」と述べた。自主規制団体である同協会は「新日本監査法人の監査実施状況について協会内で調査しており、その結果を受け、会則・規則に則り適切な対応を行う」という。果たして今回、東芝の不正会計を見逃した新日本監査法人の責任はどこまで問われるのか、今後は金融庁の対応も注目される。
もっとも、仮に監査法人が解散に追い込まれても、「公認会計士は少しも困らない」という声もある。独立したり、他の監査法人に転籍することはいくらでもできる」からだ。実際、みすず監査法人が解散した後、多くの公認会計士が他法人に流れたといわれる。ただし、近年は公認会計士が全体として過剰という指摘もあり、全ての会計士が安泰かどうかは、見方が分かれるところだ。