大手の一角が解体に追い込まれた前例も
大企業の不正経理を見逃した監査法人の責任が問われたケースはこれまでにもある。近年では2007年、有価証券報告書の虚偽記載(利益水増し)が見つかった日興コーディアルグループ(当時)の監査を担当した「みすず監査法人」(旧中央青山監査法人)が大きな問題となった。金融庁は「虚偽記載を見逃した過失はあるが、重大とは認められない」と判断し、みすず監査法人と担当の公認会計士の行政処分を見送ったものの、みすず監査法人は他の監査法人に業務を移管し、2007年7月31日付で解散した。
みすず監査法人は旧中央青山時代、虚偽記載が問題となった日興の2005年3月期の有価証券報告書を適正と認めていた。旧中央青山はカネボウの粉飾決算事件で、所属する会計士が逮捕され、金融庁から2か月間の業務停止命令を受けていた。こうして大手の一角を占めたみすず監査法人は解体に追い込まれた。
今回の東芝の不正会計問題を受け、日本公認会計士協会の森公高会長は7月21日記者会見し、新日本監査法人について、監査が適切だったかどうかの調査を始めたことを明らかにした。森会長は東芝問題について「資本市場の信頼性の観点から誠に遺憾な事態だ」と述べた。自主規制団体である同協会は「新日本監査法人の監査実施状況について協会内で調査しており、その結果を受け、会則・規則に則り適切な対応を行う」という。果たして今回、東芝の不正会計を見逃した新日本監査法人の責任はどこまで問われるのか、今後は金融庁の対応も注目される。
もっとも、仮に監査法人が解散に追い込まれても、「公認会計士は少しも困らない」という声もある。独立したり、他の監査法人に転籍することはいくらでもできる」からだ。実際、みすず監査法人が解散した後、多くの公認会計士が他法人に流れたといわれる。ただし、近年は公認会計士が全体として過剰という指摘もあり、全ての会計士が安泰かどうかは、見方が分かれるところだ。