日経新聞によるフィナンシャル・タイムズの買収劇は、国外にも大きな反響を広げた。これまでは世界では「Nikkei Index」(日経平均)という形で知られていた日経の名前が、本格的にグローバル化することになりそうだ。
海外メディアもこのニュースを取り上げており、海外メディアが日経をどう見ているかが比較的分かりやすい形で報じられている。総じて経済ジャーナリズムとしての姿勢の違いに関する指摘が目立つ。特に不興を買っているのが、日経が海外メディアに大幅に遅れることになったオリンパスの粉飾決算に関する報道だ。FTの調査報道に関する編集権の独立が守れるかという懸念の声も出ている。
日経電子版はAP報道「大胆な決断だ」を引用
買収の発表から一夜明けた2015年7月24日朝、日経電子版は買収劇が世界中のメディアで報じられているとする記事を掲載した。その内容は、
「アジアと欧米をカバーする新たなメディアグループの誕生について、海外メディアは相次ぎ詳しく報じた。米ニューヨーク・タイムズは『ニュース・メディアがグローバル化するなか、日経は世界で知名度を上げる近道とした』と分析した。AP通信は『大胆な決断だ』と報じた」
などと自画自賛に近いものだ。だが、海外の通信社が英語で配信しているニュースは、トーンがやや違っている。
ロイター通信は、日経について、
「日本では金融やビジネスニュースは必読だという評判を得ているが、国内市場では行き詰まっている」
「企業と深いつながりがあり、決算発表の何日も前にリークだとみられる『予想』が載ることには、安倍政権が企業経営の透明化を進めていることもあり、批判もある」
と指摘。買収されたFT社内の様子も伝えている。ロイターによると、FTの中では日経のことはほとんど知られておらず、不安を口にする人もいた。ただ、売却先として取りざたされていたブルームバーグに決まらなかったことに安どの声も出ていたという。FTとブルームバーグは競合する部分が多く、買収された場合はリストラが行われる可能性が高いからだ。
「特ダネを抜く能力は高いが、スキャンダルを暴く力はそれほどではない」
そのブルームバーグは、「(日経とFTの)編集部の文化は対照的」だと指摘する。
「日経は特ダネを抜く能力は高いが、スキャンダルを暴く力はそれほどではない」
これは、2011年に起きたオリンパスの粉飾決算事件をめぐる報道ではFTやブルームバーグが日経に先んじていたことを指している。
英ガーディアン紙は、社説で買収劇を「良い知らせ」だと評価。日本国内の新聞業界の市場が縮小していることを指摘しながら、
「日経が、グローバルに成功した本当に数少ないデジタルブランドに投資するのは合理的」
だとした。ガーディアンの社説でもオリンパスの件は指摘されており、やはり企業報道に対する姿勢の違いは懸念材料だとみなされている。社説によると、東芝による不正会計のようなスキャンダルは、日本では多かれ少なかれ「被害者がいない犯罪」だとみなされがちなのに対して、英米では「株主の利益が最も重視され、収益を得るための正確な情報を得られなかったという意味で、株主という『本当の被害者』がいる犯罪だとみなされる」。そのうえで、両社の違いを指摘した。
「FTは明確に株主側だが、日経がそうかは疑わしい」
7月24日夕方に開かれた記者会見でも、オリンパスの問題について
「日経は無視し、当初はオリンパスのマウスピースだった」
として、FTが調査報道を行うための編集権の独立を疑問視する声が出た。この点について、岡田直敏社長は、
「多少私どもが出遅れたということはあったかもしれないが、遠慮したということではなかった。私たちはFTの編集を自分たちと同じようにしようとは全く考えていない。FTはFTの編集方針で紙面を作っている」
などと釈明した。