新国立競技場の計画見直しを受け、下村博文文部科学大臣が集中砲火を浴びている。
東京都の舛添要一知事や野党からは辞任要求で突き上げられ、頼みの与党からも助け舟は出てこない。派閥の長老、森喜朗元首相からは「極めて非礼」「不愉快」などと切って捨てられる始末だ。
党内の評判「暗い性格で仲間は多くない」
下村氏に対し、最も舌鋒鋭く迫っているのは舛添知事だ。当初から巨額の建設費をめぐり、「説明がない」などと対立姿勢をあらわにしていた。2015年7月23日には文科省の担当局長の更迭を要求。さらにツイッターで、
「組織の長にその処分ができないのなら、自らが辞任するしかない。それが大人の世界の常識であり、役人一人の更迭もないのなら、国民は許さない」
と進退について言及した。翌24日の会見でも、下村氏が文科省内での設置を発表した検証委員会について「スピードアップしないと気の抜けたビールのようになる。電光石火でやるべき」と追及の手を緩めなかった。
同様に辞任するよう突き上げているのが野党各党だ。民主党の枝野幸男幹事長は22日の会見で「普通、恥ずかしくて辞める。プライドがあったら」と述べ、次世代の党の松沢成文幹事長も同日「辞任すべきだ。大失敗の責任を誰かに取ってもらわないと次の成功はない」と追及を強めている。
下村氏への批判が日に日に高まる中、自民党内からは助け舟が出る様子はない。党内事情に詳しい消息筋によると、
「党内に敵がいるわけではないが、暗い性格で仲間は多くない」
と厳しい見方があるという。実際に森元首相は21日、閣僚会議のため東京五輪の関連会合を途中退席したことをなじり、
「呼びかけた下村文科相が退出するというのは極めて非礼だ」
「私は極めて不愉快になった」
とこき下ろした。下村氏が所属する細田派(清和政策研究会)の長老にここまで言われては立つ瀬がない。
森氏はあえて下村氏に厳しく当たった?
政治評論家の有馬晴海さんは、下村氏が矢面に立たされているのは、安倍晋三首相をかばうためスケープゴートにされた可能性があると指摘する。
「新国立問題が安倍首相に責任が被らないよう、森氏はあえて下村氏に厳しく当たったという見方がある」
という。
安全保障関連法案を抱えている安倍政権は、7月中旬に行われた各紙の世論調査で支持率が30%台に下落した。新国立問題が足を引っ張り、30%台を割る危険水域に入りかねない状況であっただけに、安保関連法案のために「森氏がうまく目を向けさせた」可能性があるという。
夕刊紙では下村氏の「更迭論」が取り上げられているが、有馬さんは、
「いま下村氏を更迭すれば、首相の任命責任に飛び火しかねない。9月に行われる総裁選後の内閣改造で、入れ替わる可能性がある」
と見ている。
なお、当の下村氏は自らの辞任を否定している。7月24日放送の「みんなのニュース」(フジテレビ系)に出演した際、辞任について「やめる必要ないでしょ」と不愉快そうに述べた。2020年に間に合うことや、建設コストがかからない、アスリートが納得する競技場を作ることが「責任の取り方だ」と主張した。